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   2015/09/22

衛藤賢史のシネマ教室

「ふがいない僕は空を見た」(2012)で注目を浴びたタナダユキが「百万円と苦虫女」(2018)以来、7年ぶりの自身のオリジナル脚本による作品である。
企画した映画作品がことごとく失敗して借金まみれとなっている冴えない中年男と、特急ロマンスカーの車内販売のアテンダントをしている26才の女の子の、たった一日の奇妙な出会いと別れを、そこはかないペースとユーモアを織り込みながら語られるロードムービーとなっている。
北条鉢子は、新宿・箱根間を往復する特急ロマンスカーの車内販売のアテンダントをしている26才の女の子。販売実績は社内でもトップクラスで、コネ入社の同僚・美千代のヘマをいつもカバーしてやる思いやりのある子だが、幼い頃に両親が離婚したトラウマから男性との付き合いに臆病な面がある。
ある日、いつもの勤務での車内販売中、自分のワゴンからお菓子を抜き取る中年男を見つけ箱根湯本駅の事務所に連れて行くが、「お金を払う意思があった」と主張し会社も面倒くさいということで解放してしまう。プンプンの鉢子と男は駅のホームで喧嘩になるが、この桜庭という男は結構邪気がなく人懐っこい。そしてあろうことか、鉢子が破り捨てホームのごみ箱に捨てた母からの手紙を取り出し読んでしまう始末。怒る鉢子に桜庭は「この手紙の主、文面からひょっとして自殺を考えてるんじゃあない」と文面の「ひとりで箱根に行こうと思い立ちました」から不吉なことを指摘し、ふたりで箱根に探しに行こうと提案し、呆気に取られる鉢子に母が急病と言うことにして強引にレンタカーを借りて箱根へのドライブを始めてしまう。会社を勝手に休まされむくれる鉢子と桜庭との、かみ合わない奇妙な箱根への道行きが始まった。しかし道中、不和であった両親と鉢子のたった一回だけの箱根旅行の懐かしい思い出に浸り、また桜庭の映画製作の失敗から妻子と離婚する羽目になっている境遇などを、問わず語りに聞く内に、鉢子もだんだんと、この箱根の観光を楽しむようになるのだが…。
ちょっと取って付けたようなストーリー展開に違和感を感じるが、お互いに過去のトラウマを抱えたふたりの奇妙なコンビの会話のやり取りが結構楽しいのだ。大島優子のナチュラルな演技は、鉢子という女性のひとりで生きる精神的浮遊感を感覚的によく捉えているし、大倉孝二の桜庭の憎めない中年のオッチャンの演技は出色で、はしゃぎながら、やがて哀しきの感じがよく出ている。ぼくは結構好きな作品でした。
ぼくのチケット代は、大島と大倉の演技に2000円出してもいい作品でした。
星印は3つ差し上げます。
 
 

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