1950~60年代、アメリカとソ連の冷戦時代。アメリカで逮捕されたソ連のスパイの弁護を引き受けた弁護士ドノヴァンの苦闘を描いた、事実に基づいた作品である。
地味な題材であるが、さすがスピルバーグ監督!堂々とした風格のある大作に仕立てあげており、緊迫感の中にヒューマンにあふれる内容となっている。
1957年。今から約60年前、アメリカのマッカーシズム(日本では赤狩りと称した)旋風は下火になっていたが、共産主義に対する反感(共産主義をアメリカの市民が嫌う主原因は<宗教否定>にあった)はまだ根強い時期、アベルというソ連のスパイがFBIに逮捕された。アメリカが法治国家であることを証明するため弁護士ドノヴァンがアベルの弁護を国家に命じられた。有能なドノヴァンは、死刑がほぼ確実なアベルの自国に対する真摯な姿勢に好感を持ち、何とかして死刑を避けようと努力し30年の懲役刑にする事に成功する。しかし、そのために市民たちからイヤがらせを受ける羽目を負う。その5年後、アメリカの偵察機U-2がソ連の領空で撃墜され、パイロットのパワーズ中尉がソ連からスパイとして10年の刑を受ける事件が起こる。パワーズからの機密の漏洩を恐れたCIAのホフマンは、パワーズとアベルとの囚人交換の交渉人に依頼してくる。ドノヴァンはアベルの減刑の切り札に、その事を予言していたのだ。
国家間の交渉が表立った形で出来ないこの時代、裏でのむつかしい交渉を依頼されたドノヴァンは、ソ連側が指定してきた東ベルリンに向かう。その東ベルリンは、ベルリンの壁を敷かれようとした時で、アクシデントで捕らえられたプライヤーと言うアメリカから留学した大学院生もスパイ容疑に逮捕されていた。
謎めいた組織に翻弄されながら、東ベルリンでその事を知ったドノヴァンはアベルとパワーズにプライヤーを含めた1対2というむつかしい交渉を開始したのだが…。
スピルバーグはキチッと時系列に沿いながら、この緊張感あふれるドラマを演出していく。アベルの裁判、U-2の事件、パワーズの裁判、CIAからの接触、東ベルリンでの出来事。両大国の虚々実々の駆け引きの中で、ヒューマンな心のドノヴァンが人間の命を第一にして活動する様はパワフルであり、その人道的行為は素直にぼくら観客の心に訴えかけてくる。国家と面子を守るためには非情なパワー・ポリティカルな世界観の時代だからこそ、歴史をもう一度紐解く必要をスピルバーグはこの作品に託したような内容である。テーマを内包した娯楽作品としてもスリリングな展開で142分目が離せない一級の出来となっている!主役のT・ハンクスの好演も光っていた!
ぼくのチケット代は、2,400円出してもいい作品でした。
星印は5つ差し上げます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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