カンヌ国際映画祭に初参加でいきなり「ある視点」部門・審査員賞を受賞した、36才の映画監督・深田晃司のオリジナル作品である。
シリアスな描写の中に、キリスト教的原罪意識に包まれた人間の内面を切り取る演出が評価された作品だ。
小さな金属工場を営む物静かな夫婦と10才になる一人娘。
妻はプロテスタントの信者。
そんな家庭にある日、夫を訪ねて八坂という男がやってきた。罪を犯して刑務所に入り刑期を満了し、昔の仲間の夫に短期間の間、仕事の助手をさせてもらいたいと尋ねて来たのだ。夫は八坂の前歴を妻には言わず雇い入れる。八坂は寡黙な男で、妻に対しても礼儀正しく、娘にもやさしい。しかし突然、三人家族の生活の中に同居しはじめた八坂に、妻の気持ちはギクシャクする。八坂は、そんな妻と娘と教会に同行した時、自ら自分の前歴を告白する。妻の心は動揺したものの、暗い過去を持つとは思えない奇妙に礼儀正しい八坂の生活態度になぜか心の高ぶりを覚えていく。それは八坂という孤独な男への同情か愛情なのか?自分でも判じかねない気持ちの中で妻と八坂は急接近する。
だがある日、奇妙で残酷な出来事が発生し、八坂はふっつりと姿を消してしまう。
それから8年、夫婦は因縁の糸に導かれるようなめぐり合わせに遭遇する。
それは同時に、お互いの心の深淵を覗き込む事にも繋がっていくのだが…。
シリアスな内容を見せながら、ぶつ切れの蕎麦みたいにフェードアウトを多用し、事柄の内容を淡々と見せながら、夫婦と八坂の人物造型をまるで墨画のように曖昧模糊にする手法で、観客であるぼくらに、他人には伺い知れぬ人間の心の深奥を洞察させようとする方法を試みてくる。
人間の心は複雑である。それ故に自分の心を扱い兼ねて<原罪>的意識に悩ませられる存在である!と、いうことを登場人物のみならず、見るぼくらの心にもグサッと突き付けてくる作品となっているのだ。
ぼくのチケット代は、2,200円を出したい作品でした。
星印は、4ツ差し上げます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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