東京国際映画祭で作品賞と最優秀女優賞を獲得したブラジル映画だ!
国土が広いブラジルは今だに各種の困難な状況を抱えており、それに対しての強烈なメッセージ性を持つ作品をブラジル映画界は発表しつづけているが、この作品は1940年代に科学という名の下に世界的に行われた、患者の人権を無視した精神療法に疑念を感じその解決に挑戦した女医の話である。
1944年、第二次世界大戦の最中。リオデジャネイロにある国立精神療法所にニーゼ・ダ・シルヴェイラが赴任してきた。ニーゼがそこで見たのは当時の精神医学で最先端療法と言われた電気ショック療法であった。患者を実験動物のように扱う同僚医師の態度に反発したニーゼは、院長にロボトミー手術を含む患者の人格を無視した治療方法を抗議するが、その結果ドクターが関知しないナースたちで運営する作業療法部門に配置されてしまう。そこは比較的手のかからない患者たちに易しい作業をさせるのを監督するだけの部門だった。本来なら医師がタッチしない部門に属するという事は、医師にとって屈辱的扱いであったが、ニーゼは挫けず汚れ放題の作業所を清潔にさせ患者たちの動向を観察しはじめる。その中のひとりの患者の動向に注目したニーゼは、患者たちに絵の具や筆、カンバス、粘土などを与え、自由に絵画活動をさせてみると患者たちは生き生きとしはじめるのを発見する。ニーゼは院長に頼み凶暴性があると診断されたルシオや電気ショック治療をされたフェルナンド、手にした人形を触ると暴れ狂う女性の患者アデリーナたちを引き取る。最初は作業所のスタッフもてこずるが、他の患者に習い次第にカンバスや粘土に向かい制作をはじめる。ニーゼはその患者たちの変化をユング博士に手紙で報告する。ニーゼのその新しい試みはユング博士にも評価され、勇気づけられたニーゼは、今度は患者たちに犬の世話をさせてみる。自分の受け持ちの犬への愛情は患者たちの症状を改善させる。このニーゼたち作業所スタッフの試みは、近代科学を信奉する頑迷な医師たちの反発はあるものの、次第にいい方向に向かうと思われた中、ある事件が起こってしまう…。
この実在したニーゼ医師の芸術療法を描いた作品は、同時に時代を超えた強烈なメッセージ性を内包しているのは明らかである。自分たちの理解の範疇を超えた者に対するヘイト感覚であり、自分より劣ると思う者への侮蔑の感情であるのだ。
時にはユーモアを交えながら淡々とヒューマンな内容を綴るこの作品は、現代のぼくらこそ見るべき映画なのかも知れない。
ぼくのチケット代は、2,300円出してもいい作品でした。
星印は、4ツ差し上げます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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