大分県人にとって豊後高田市の<昭和の町>でのロケがあった映画として知っておられる方が多いと思う作品だ。人気作家・東野圭吾の同名の原作であり、時空を超えたファンタジーな内容を持つ、ハートウォーミングな映画である。2012年。児童施設で育った3人の若者が、とある事情により悪事をはたらいて(この事は終盤その事情が判明するのだが)導かれるように廃屋となっていた<ナミヤ雑貨店>に入り込むシーンから、このドラマははじまる。
1969(昭44)年、まだこの町が活気があった時、<ナミヤ雑貨店>の主人・浪矢雄治(西田敏行)は、本業のかたわら客の人生相談を手紙のやり取りでしていた。その手紙のやり取りは匿名が主であり、店の横の牛乳入れに雄治は相談の返事を入れていた。1980(昭55)年、魚屋ミュージシャンの匿名を持つ若者(林遣都)が手紙を入れる。その手紙は時空を超えて32年後の3人の若者、敦也(山田涼介)翔太(村上虹郎)幸平(寛一郎)が潜む廃屋の<ナミヤ雑貨店>に届く。3人は戸惑いながら雄治の名前で返事を書いて牛乳入れに入れてみる。その返事は牛乳入れから消えて1980年の若者に届いていたのだ。さらに田村晴美(尾野真千子)の人生相談の手紙を敦也が書く。その奇妙な出来事は、すべて3人の若者が育った児童施設に起因していたのだ。浪矢雄治の他人を慈しむやさしい思いが、時空を超えて<ナミヤ雑貨店>に3人の若者を導き入れ、それはリンクのように繋がり合って敦也・翔太・幸平の3人のみならず、様々な人の人生への奇跡を生む模様を彩ることとなったのだ・・・。
1969年を発端にして、1980年、そして現代の2012年を帰結とするサークルのように輪廻するこの奇跡の物語は、やさしい心根にあふれる無名の庶民の連鎖となるファンタジーである。その重要な背景として豊後高田の<昭和の町>がロケ場所に選ばれたのは、大分県の誇りになったと言っていい!また原作とは違うラストの描写のやさしいまなざしは、視覚メディアとしての映画ならではの力となっていた!
ぼくのチケット代は、2200円出してもいい作品でした。
星印は3ッ半さしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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