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はちどり

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   2020/06/23

衛藤賢史のシネマ教室

小さな小さな<蜂鳥>。羽をはげしくホバリングさせながら蜜を吸う姿は蜂なのか鳥なのか分からない。この作品の主人公は中2という、いわば蜂(こども)と鳥(大人)の中間にある、<はちどり>のような存在の少女なのだ。その少女の心象風景をとおして、1990年代の韓国近代化の過程に潜む古い因習の姿と民主化への有様を強い感情を消して淡々と描いていく作品となっているのです!

1994年。韓国は1988年のオリンピック開催を機に契機にグローバル社会に進出し、空前の経済成長に沸いていた。その影にまだ古い因習や体制の名残も色濃く残す国家だった。ソウルの集合団地に住む中学2年のウニ(パク・ジフ)は、小さな飴屋を営む父(チョン・インギ)、母(イ・スンヨン)、志望校に落ち隣町の高校に通う姉と中3の兄との5人暮らし。ウニが通う女子中学は学歴主義を重視しており、それについていけない。漢文塾に通う別の中学生ジスクと仲がよく、ふたりでカラオケやクラブで遊んでいた。少しずつ大人の世界に興味を持ちはじめる年頃で別の中学の少年とつき合っている。男性に比べ女性の位置が低い因習も残る中、受験にいらいらする兄からなぐられても抵抗できないウニは、漢文塾に新しくきたソウル大の女性教師ヨンジ(キム・セビョク)に憧れる。うさばらしの万引きでつかまりジソンと仲違いしたとき、彼氏と家の格でうまくいかなかったときにも、ヨンジはウニの話しに耳を傾け聞いてくれる。耳の下にできたしこりを取る手術で入院したときにもヨンジは見舞いにきて励ましてくれ、兄中心で動く家庭に孤独を覚えるウニに「誰かに殴られたとき立ち向かうの、黙っていたらダメ」と社会的因習にそまっていたウニを励ます。こどもでも大人でもないどっちつかずのウニの心はヨンジの言葉で一歩成長した自我心が生れはじめる。そんなヨンジが漢文塾を退職していた。心が空になったウニにソウルの漢江にあるソンス大橋が崩落したという知らせが入る。姉が通うバスが走る時間帯であることを知るウニはあわてふためくが・・・なんと!・・・。

まだ成長しきらない思春期特有の揺れ動く心の中、頭の中だけの知識で作り上げた大人の世界への渇望や、古い因習が残る男尊女卑への少女ならではの反抗心を繊細な感覚で描写していくキム・ボラ監督のこの作品は、こどもと大人の挟間の少女の説明しがたい心の様を描写の行間から読ませようとする演出タッチの微妙な手法は、女性監督ならではこそ成し得なかったであろうと思う極めてオリジナル性の高い独特な空気感が全編に漂う内容となっていたのだ!
ぼくのチケット代は、2300円出してもいい作品でした。
星印は、4ッ半さしあげます。

5点満点中4.5点 2300円

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