<淪落>とは日本の辞書では<落ちぶれる>と表記されるが、この作品は事故で心も躰も<落ち込む>身となった男性と、異国の地で家政婦として働く女性との交情を通してそれぞれの未来を切り開くまでを描く一服の清涼剤のような清々しい内容となっているのです!コロナ禍で日本中の人々の身も心も<落ち込む>気持ちが充満する今、ガンバレ!という励ましのメッセージが感じられるような作品となっているのです。
香港人のリョン・チョンウィン(アンソニー・ウォン)は、不慮の事故に遭い胸から下が麻痺し車椅子で公団アパートでひとり暮らししている。妻とは離婚、愛する息子は米国の医学部に留学中で、これからの人生に一片の希望も抱けない保障金だけでの生活を送っていた。わずかな慰みは、香港に本土から働きにきてチョンウィンが慣れない生活の世話をしてやった元同僚のファイ(サム・リー)との懇談と、米国の息子とインターネットでの会話のみだった。そこに頼んでいた住込みの家政婦として若いフィリピン人の女性エヴリン(クリセル・コンサンジ)が訪ねてきた。しかし安い給料での依頼での人選だったので広東語が話せず英語だけの彼女との意思疎通にイライラする。大学へ行く資格を持っていたが貧しいため進学を諦め香港で家政婦として働くことを決めたエヴリンは、会話が通じずイライラするチョンウィンに必死で働くから馘首しないよう頼み献身的に世話をする。口は悪いが人柄はいいチョンウィンは、エヴリンとの生活でだんだん癒されはじめる。エヴリンに広東語を教え、自分はエヴリンから英語を学び、しげしげとやってくる。ファイとの三人で同じ食卓を共にするまでになる。そんな間までなった時、チョンウィンはエヴリンの夢が写真家になることだったと知る。ファイに頼みチョンウィンはプロ用のカメラを買いプレゼントする。高価なプレゼントに固辞するエヴリンだったが、彼女の手助けをしたいチョンウィンの気持ちに感謝し香港での生活を撮りはじめるが・・・。
事故で半身不随になり人生に絶望した中年男性と、貧しさゆえに将来の夢を封印した異国の若い女性が出会い、それを取り囲む人々も加えながら様々な紆余曲折を得て理解しあっていく!というこの作品は淡々と描いていくだけに反って心に染み透るような内容となっていたのだ。オリヴァー・チャン監督の四季を背景に織り混ぜながら人々の営みを丁寧に綴る繊細な描写は、問わず語りに作品の持つメッセージを浮き彫りさせてくる感性のいい才能を感じさせてくれる演出ぶりであった。そして電動車椅子にチョンウィンとエヴリンが二人乗りして街中を楽しそうに走るシーンは、見おえた後いつまでも残像として残るだろう名シーンとなっているのだ!
ぼくのチケット代は、2500円出してもいい作品でした。
星印は、5ッさしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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