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ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像

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   2020/03/17

衛藤賢史のシネマ教室

「こころに剣士を」で社会主義の政権下で地方に堕とされたフェンシングの先生と生徒とのヒューマンな交流を描いた、フィンランドのクラウス・ハロ監督の作品であり、今回は仕事一筋の老美術商が自分の鑑定眼の誇りを賭けて、疎遠だった孫と共に作者不明の肖像画で最後の勝負に出るという作品となっている。

個人経営の美術商一筋で生きてきたオラヴィ(ヘイッキ・ノウシアイネン)は自分の鑑定眼に誇りを持つ老人だが、大きな会社やネット通販などに押され経営が悪化していた。仕事優先の生活は妻亡き後、娘家族と疎遠となりひとり暮らししている。そんな中、娘から孫オットー(アモス・ブロテルス)が問題を起こし罰としての職業体験をオラヴィの店でさせてくれるよう頼まれる。生意気盛りのオットーとは長年会ってなく他人のように接するオラヴィ。そんな矢先、阿漕な商売で有名なオークション・ハウスでオラヴィは署名のない肖像画に目を奪われたのだ。作風からロシアのイリヤ・レーピンと直感したオラヴィは、何としても手にいれようと金策に奔走する。もし、署名もない肖像画がレーピンの作品と証明できれば投資した金額の何百倍もの価値があるのだ。しかし、なぜレーピンはその肖像画に作家の命である自筆の署名をしなかったのか?オラヴィは、しだいにこの仕事に興味を抱きはじめたオットーと共に、あらゆる画集や美術館でのカタログなどの文献に当たりレーピンの作品である証拠を探していく。おそらく自分の人生の最後の勝負である事を自覚しながら、ネット情報やパソコンに精通するオットーに助けられつつ自分の鑑定眼に賭けるオラヴィ。果たしてオークションで、その肖像画を落札できるか?そして、その謎を秘めた署名のない肖像画がレーピンの真筆としたら、なぜレーピンは署名をその作品に描かなかったのか?その謎の解明に迫っていくオラヴィとオットー。

ロシア写実主義の最高峰の画家イリヤ・レーピンの作品を巡っての真贋を追求する老画商と孫の推理過程を縦糸に描きながら、孤独な老人と娘の家庭との冷え冷えとした確執と、北欧の暗く沈んだ風景が見事に重なる絵画のような構成のこの作品は、その周辺の出来事をも丁寧な描写で織り込み、胸に凍みる内容となっていた!それだけにラストの余韻が一片の清涼剤となっていたのだ!
ぼくのチケット代は、2400円出してもいい作品でした。
星印は、4ッ半さしあげます。

5点満点中4.5点 2400円

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