映画の題材に成りにくい分野に照明を当て、観客の意表を突く内容で「う~ん、そう来たか!」と楽しませてくれる周防監督が3年ぶりに手掛けたのは、活動写真と言われたサイレント映画の時代に、スクリーン横で文楽の語りよろしく即興で解説する職業「活動写真弁士=活弁(カツベン)」を志す青年を主人公に据えた作品。
時は大正時代(1912末~1926)。染谷俊太郎(成田凌)は子供の頃より将来は有名なカツベンに成りたいと思っていた<その子供時代の描写が楽しいのです!>大の活動写真好き。が、青年になった今は子供の頃から大ファンである活動写真の弁士の山岡秋聲(永瀬正敏)の声色をするニセ弁士として泥棒一味の片棒を担ぐ不本意な生活を送る身となっていた。そんな生活に嫌気がさした俊太郎は、警察官から追われトラックで逃げる途中に飛び降り一緒に落ちたトランクを持ったまま逃亡する。泥棒一味のボス安田虎夫(音尾琢真)は凶悪な性格。虎夫に見つからないよう逃げる俊太郎は、とある町の[青木館]という活動写真館でライバル館から弁士を引き抜かれ、人手不足に困った館主の青木富夫(竹中直人)と強妻の豊子(渡辺えり)に拾われる。夢にまで見た活動写真館で働ける!しかし雑用係。少しガッカリしたものの、何と弁士の一人に憧れの山岡秋聲がいるではないか。だが秋聲はアル中となっており、主任弁士の茂木(高良健吾)から軽蔑される身に落魄していた。ある日、秋聲が酔いつぶれアナが空きそうな事態に俊太郎は得意の声色で弁士を勤めたのを機会に、憧れの弁士を兼ねるようになる。そこに虎夫が現れた。虎夫は俊太郎が持ち去ったトランクに目的があったのだ。さらに子供時代の初恋のあいての梅子(黒島結菜)との再会、ライバル館とのトラブル、泥棒一味を追う警官の木村忠義(竹野内豊)の登場などなど、上へ下への大騒動が俊太郎の身に降りかかってきた!さあどうする俊太郎・・・。
サイレント映画時代の花形職業であった活動弁士の有様を、綿密なリサーチで再現しながらドタバタ喜劇調で展開させるこの作品は、もう映画界から露の如く消え去った活動弁士へのオマージュを描いていくのだ!活動弁士の語りによって駄作が俄然名作に変化する様など周防監督のリスペクトのこもった盛り沢山の内容となっていたのです。
ぼくのチケット代は、2200円出してもいい作品でした。
星印は、3ッ半さしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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