2018年度のアカデミー賞で、作品賞など8部門にノミネートされたポリティカルなブラック・ユーモアに満ちた内容の作品となっている。ちなみに<バイス/Vice>という単語は<悪徳>などの意味だが、<副/代理>などの意味もあり、副大統領をバイス・プレジデントと言い、この作品はそのふたつの意味をひっかけてジョージ・W・ブッシュ大統領に仕えたディック・チェイニー副大統領の政治的暗躍を描いていくのだ。
民主党のクリントン政権の後、2001年に46代・大統領に選ばれた共和党のジョージ・W・ブッシュの時、副大統領になったディック・チェイニー(クリスチャン・ベール)は若い頃、みじめだった。妻となった才媛な恋人リン(エイミー・アダムズ)の助けを借りイェール大学に入学したものの酒癖が悪く退学させられ、故郷で日雇いの電気工として細々と暮らしていた。しかし、リンの叱咤で政界入りを目指し曲者の下院議員ラムズフェルド(スティーヴ・カレル)の知遇を得て水を得た魚のように出世していく。政治家としては口が重く、心臓に欠陥を持つチェイニーだが、ラムズフェルドからの裏の政治学を学び、妻リンの助けもあり裏技師としてどす黒い政界の荒波を巧みに潜り抜け重鎮として順調に出世の階段を登っていった。そして2001年、ブッシュから請われ副大統領になる。妻リンはこの役職は閑職であり断るように言うが、チェイニーは裏からブッシュを操れると判断し就任した直後、あの911の同時多発テロが起こる。呆然とするブッシュを差し置いてチェイニーは危機対応にあたり、裏から政権の実権を握っていく。アメリカの歴代副大統領が成し得なかった、大統領の影に隠れた国民の目の届かない役職の者が、アメリカの政治を変えていったのだ・・・。
この作品を見れば、ぼくら日本人には分かり難いアメリカの政治システムが理解できるのだ。同時に大統領しだいで、アメリカの進むべき方向がコロッと変わる怖さを思い知ることになるだろう!もちろんこの作品は、民主党贔屓から見ている部分も多々あるように思うが、原則としてのアメリカの立ち位置を知る上で絶好の教科書ともなるブラックな内容を、エンタティメントにしてしまうアメリカ映画のしたたかさに驚くだろう!クリスチャン・ベールのチェイニー役はあまりのソックリさに役者根性を感じ、ここまで似せるか!とびっくりしてしまった。地味な感じで封切られたが、一見の価値ある作品となっているのだ!
ぼくのチケット代は、2200円出してもいい作品でした。
星印は、4ッさしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
©2024 Oita Broadcasting System, Inc. All Rights Reserved.