世界最強の国家として君臨した大英帝国の最絶頂期を60年以上統治したヴィクトリア女王晩年の、歴史から封印された<知られざる出来事>を描いた作品である。名優ジュディ・デンチが、従僕ジョン・ブラウンとの秘められた愛を描いた「Queen Victoria 至上の恋」(;97)につづく2度目のヴィクトリア女王役を威厳たっぷり演じる、豪華なコスチューム・プレイ作品となっていた。
1887年、ヴィクトリア女王即位50周年記念式典の催しのひとつに、英領インドで作られた記念金貨の贈呈が企画された。その贈呈役には、背の高い端正な顔立ちがいいというだけの理由で選ばれた庶民のアブドゥル(アリ・ファザル)が英国へ派遣される。最愛の夫アルバート公や、愛する従僕を亡くし、心を開く相手が皆無のヴィクトリア女王(ジュディ・デンチ)にとって、王室のしきたりを知らないアブドゥルの無邪気な態度で女王に話しかけてくる様は新鮮な経験だった。絶対権威の持ち主に面従腹背で接する皇太子や家臣の空々しい態度に心を開かず、長年孤独に耐えていたヴィクトリアは、アブドゥルの話すインド文化の歴史や言葉に、堅く閉ざしていた心がしだいに氷解していく。すっかりアブドゥルが気に入ったヴィクトリアは、常に彼を同伴させるようになる。しかし、それは植民地人を蔑む王室に仕える面々にとって許しがたい行為にうつることになるのだった。だが身分や階級を超えて人間として強い絆に結ばれたヴィクトリアとアブドゥルの関係は濃厚になっていくばかり。あせった皇太子や家臣たちは、密かにアブドゥルの排斥を企てはじめたが・・・。
これはヴィクトリアの息子エドワード7世によって、イギリス王室の歴史から削除された真実の出来事を掘り起こした内容になっているのだ!19世紀同時のコスチュームをリアルに再現し、ヴィクトリア女王がこよなく愛した離宮<オズボーン・ハウス>を映画としてはじめて許可されるなど、女王が生きていた当時の生活を等身大に描写しながら、絶対権力者ゆえの絶対的孤独の有様を活写する作品となっている。ジュディ・デンチの老い果てたヴィクトリアが、アブドゥルの出現により再び人間としてのよろこびを取り戻す様を、威厳と孤独な心の葛藤を見事な演技で魅せてくれる、異色の英王室絵巻な作品となっているのだ。
ぼくのチケット代は、2200円出してもいい作品でした。
星印は、3ッ半さしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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