この映画を見た後、「チョコレートドーナツ」という邦題をつけた配給会社のセンスにしばしの感銘と余韻を感じるのではないでしょうか。そして皆がマルコ少年に深い愛情を覚え、偏見という感情を法律で使った人々に憤りを覚えられることでしょう。
物語の舞台は1970年代のカリフォルニア。最底辺の暮らしの中で生活しているダウン症のマルコ少年は、薬物依存症の母から邪険に扱われながら透き通ったような無垢な精神の子どもに育っている。
隣の部屋の住人のゲイのルデイは、ショーダンサーとして、その日暮らしの生活をしている。そんなルデイを見初めたのは、エリートである弁護士のポール。当時のアメリカはゲイに対しての偏見が強く、ポールは自分がゲイであることをひた隠ししながら生活していたのだが、ゲイのショーバーで舞台に立つルディに強く魅かれてしまう。
一夜を共にしたポールはルデイに事務所の電話番号を渡してそそくさと去ってしまう。そんな時、マルコの母が薬物で捕まり、ひとり部屋でぽつねんと待つマルコに同情したルデイは、ポールに助言をもらおうとマルコを連れて事務所を訪ねるが、ゲイであることを知られるのを恐れるポールは、「マルコを施設に預けろ」とルデイを追い払う。
がっかりしてアパートに戻るとマルコの部屋に麻薬の捜査員と家庭局の職員が待っており、マルコはいつも抱きしめているお気に入りの人形と共に、強制的に施設に連れて行かれる。翌日、つれない素振りをしたことを恥じたポールは、ルデイを訪ね詫びを言う。
その夜、施設を抜け出したマルコを見つけたふたりは、ポールの家にマルコを連れて行く。そして、ルデイの偏見のない愛情と、マルコの無垢な精神に感銘したポールは、刑務所の母からマルコの保護権の承認をもらい三人で暮らし始める。まるで本当の両親のようにルデイとポールはマルコを愛し、マルコも心からふたりを慕う。
しかし、周囲の偏見はそれを許さない。マルコを引き取るとき、ゲイのカップルであることを隠したことを通告され、ふたたびマルコは施設に戻されてしまう。ポールとルデイは心からの怒りで「今年こそ世界を変えるチャンス」と訴訟し、裁判で戦う決心をするのだが…。
実際にあった出来事をベースにしたこの作品は、一切の見返りを求めず、純粋な愛情によって、結ばれた三人の宝石のように輝く生活を描くことによって、偏見から生じる世間常識の心の歪みを静かに、しかし痛烈に弾劾する内容となっている。
ルデイを演じるA・カミングの得もいわれぬやさしいハートの演技も素晴らしいが、マルコを演じたI・レイヴァなしには、この作品は成り立たなかっただろう可愛さだ!
ぼくのチケット代は、2,300円出してもいいと思う作品でした。星印は4つ半差し上げます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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