親と子。人間同士の最小の共同生活なのに、その在り方は千差万別。いや密接した心の最小共同生活ゆえに些細な条件で壊れ修復する連続となり得る。
この作品は、血のつながらないふたりの娘の父が、妻の妊娠を通して微妙に壊れはじめる家族の有り様に直面し、悩み苦しみながらその再生を考えていく物語である。
有名商社の営業マンの田中信(浅野忠信)は、かって優秀な研究者である友佳(寺島しのぶ)と結婚し沙織(鎌田らい樹)をもうけたが離婚し、今は奈苗(田中麗奈)と再婚している。奈苗には前夫の沢田(宮藤官九郎)との間に薫(南沙良)と恵理子(新井美羽)という娘がいるのを承知で田中は結婚したのだ。今度こそ家庭を大事にしたい田中は、休日出勤や残業なども断りタバコも絶つほどであったが、それが原因で会社の倉庫に出向された。その事を奈苗にも言わず黙々とその屈辱的仕事を受入れ定時に家族の待つ家にもどる生活をしていた。そんな田中にある出来事が起こった。奈苗が妊娠したのだ。外に実の娘がいて、血のつながらないふたりの娘と暮らす田中には荷が重く気乗りしなかったが奈苗は生みたい意志を持っていた。
が、母の妊娠を知った小6の微妙な年頃の薫の態度が変化した。田中に対してひどく反抗的態度を示しはじめたのだ。そして実の父に会いたいと言いはじめる。沢田のDVで離婚した奈苗には、そんな薫の気持ちが分からない。日に日に薫の態度は突っけんどんになり、家族の気持ちはバラバラになりはじめ、家族を大切にしたいと思う事から会社の屈辱的出向も受け入れた田中の気持ちも荒れる。その頃、年に数回会うことを許されていた沙織に関して友佳が日延べしたいと知らせてきた。友佳の現在の夫が末期ガンにかかっているからと言う理由だった。
八方ふさがりの田中は奈苗に黙って沢田に会いにいき、薫と会ってくれと頼む。
そんなある日、沙織が突然田中のマンションの前にくる。ふたりで食事している最中に沙織に友佳から夫の危篤のケータイが入り、そうとは知らず迎えにきた奈苗と恵理子と、沙織をはげしい雨の中、病院に送る。そんな辛い状況の中で田中の<父親>としての気持ちの何かが微妙にしかし確実に変化しはじめる・・・。
三島監督の繊細な各人の気持ちの描写の的確さもあり、弱い人間の精神がお互いに傷つきながら、可能な限り家族関係の修復に努めようとする人々の心が、哀しく切ないほどぼくら観客の胸に迫ってくる佳作となっているのだ。
ぼくのチケット代は、2300円出してもいい作品でした。
星印は、4ッさしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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