1954年13才で「越後つついし親不知」で子役として映画デビューして以来、66年間も名バイプレーヤーとしてあらゆる役柄を演じ続けた石橋蓮司が主演するハードボイルド・タッチのコメディ作品である。
市川進(石橋蓮司)は、かって「愛の底」という純文学を出版したものの、以降は冴えないハードボイルド小説を編集者(佐藤浩市)に送りつづけて悩ませている。しかし、裏稼業はサイレントキラーと異名をとる伝説の殺し屋であり、妻の弥生(大楠道代)もその事を知らない。今日も市川はポパイ(新崎人生)という屈強な躰をした謎の男が経営するバーに向かう。そこで会うのはヤメ検の石田(岸部一徳)であり市川の裏稼業の依頼者。実は市川は一度も人を撃ったことがなく、石田が指名する標的の行動をリサーチするだけであり、実行者は今西(妻夫木聡)という男の役なのだ。今回の標的はコンサルティング詐欺をはたらく男(江口洋介)であり、市川のリサーチの相棒はひかる(桃井かおり)という陽気な老女。自殺に見せかけた殺しは、今西の手際のいい処置で成功するも、石田が中国系のヒットマンから命を狙われはじめ、伝説の殺し屋と言われる市川にも身の危険が迫る羽目に陥ってしまう。市川は今西にヘルプを求めるが恋人ができた彼はもう仕事をする気持ちがまったく無い状態。加えて妻の弥生は市川の挙動を怪しみはじめ、勝手に市川の周辺を探りはじめた。切羽詰まった市川は、その中国系のヒットマンと対決する覚悟をするのだが・・・。
薄暗いバー。タバコの紫煙漂うそのバーのカウンターでトレンチコートにサングラス姿の粋な格好の市川が石田と生のままのウイスキーを飲むクラシックな雰囲気。ハードボイルドそのものの場面設定の中、うごめく正体の分からない人物たち。などなど、かってのハードボイルド映画の雰囲気を全編に濃厚にちりばめながら、同時にこの男くさい世界を描いてきたこのジャンルの終焉を悟ったような、郷愁に満ちた挽歌のようなライムライト的作品となっていたのだ。それにしても石橋蓮司の残り火のような男の色気を感じさせる演技は出色であった!
ぼくのチケット代は、2100円出してもいい作品でした。
星印は、3ッ半さしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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