直木賞作家の桜木紫乃の自伝的小説を、「百円の恋」の武正晴監督が映画化した作品。北海道を舞台にしたこの作品は、やむ無い事情から実家が経営するラブホテル「ホテルローヤル」を継いだ若い女性の目を通して見ることになる様々な客の動向を、切ない目線で描いていきます。
釧路で「ホテルローヤル」を営む家庭のひとり娘・雅代(波瑠)は、美大受験に失敗しイヤでしょうがない稼業を手伝うことになる。頼り甲斐のない父(安田顕)に代わり、昔からの女性従業員と母(後失踪)の手伝いをする雅代。そこは様々な事情で、日常の生活から離れたい人々が訪れる場所。投稿ヌード撮影のためにラブホテルを利用するカップル。子育てと親の介護で精神的にアップアップの状況下、せめて一刻のふたりきりの空間を求めて訪れる中年夫婦。崩壊した家庭で孤独で行き場のない女子高校生を保護したものの、連れていく場所がなくラブホテルにきた、妻に裏切られた高校教師の奇妙なカップル。そんな客を客観的に眺めながら黙々と、部屋のセッティングや後始末をする雅代。そんな雅代のたったひとつの楽しみは、アダルトグッズ会社の営業マンの仕事を誠実な態度でする宮川(松山ケンイチ)に会うことだった。そんな中、従業員のミコ(余貴美子)の子供が犯した事件に雅代は動揺する(この事件でのミコが回想するリヤカーを引きながら幼いミコに語る母のシーンは切ない)。そして追い打ちをかけるようにホテルの一室で心中事件が発生し、メディアの弾劾による疲労から父が心臓病で倒れた。雅代は、自分自身のこれからの人生の選択を迫られた末にある決断をする…。
原作は7編からなる連作小説となっており、映画化の場合それをスムーズに繋ぐ作業を担当する脚本家の力量が重要な要素となるのだが、清水友佳子の脚本は筋立てにギクシャク感がなく成功したと思う。その脚本に立って武監督は、ままならぬ人生の哀感を水彩絵の具でなぞるように淡く描いていく作風によって好感のもてる作品に仕上げていたのです。
ぼくのチケット代は、2200円出してもいい作品でした。
星印は、3ッ半さしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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