浦沢直樹の「20世紀少年」「MASTERキートン」などの人気漫画作品で、ストーリー共同制作者として活躍してきた長崎尚志の原案を、青春映画で腕を奮う永井聡が監督した異常な精神世界をさ迷う殺人者と、偶然彼に遭遇した若き漫画家の葛藤を描いていく物語となっています。
ホラー・サスペンス漫画家を志す山城圭吾(菅田将暉)は、画才は誰もが認める腕を持ちながら根が善良故に、悪役キャラクターの造型が出来なくて悩んでいる。恋人の夏美(高畑充希)は、そんなやさしい性格の圭吾を心から愛し見守っていた。最後のチャンスとして描いた作品も、大手の出版社から「画才は認めるが、肝心の悪役のキャラが怖くも何ともない」とダメ出しされ漫画家をやめる決心をする。最後の仕事としてアシスタントとして働いている漫画家の師匠の依頼で「誰が見ても幸せそうな家」のスケッチに出かけ、最適の家を見つけ時間も忘れて精密な描写で描く内にふとした事から家の中に足を踏み入れてしまう。そして、そこで圭吾が見たのは食卓で4人の家族が団欒するような構図で惨殺されている無惨な光景だった。恐怖で立ち竦む圭吾の前で去る若き殺人者の横顔が見えた。しかし、警察の調べで圭吾は「犯人の顔は見ていない」と嘘の証言をしてしまう。それをモチーフとして圭吾は;ダガー;という若き殺人者を主人公にした「34」という作品を描き、異例の大ヒット作として一躍売れっ子漫画家となる。しかし、その栄光は圭吾の悲劇のはじまりだった。<もろづみ>と名乗る真犯人(Fukase)が、圭吾の前に姿を現し「先生と僕は共同制作ですね。先生が描いたものを僕がリアルに再現しますから」と告げる。悩んだ果て、圭吾は最初の事件で調書をとった清田(小栗旬)に<もろづみ>の事を告げ、「34」を描くのをやめる決心をするのだが…。
この作品は、日本映画にはあまり無いカラカラに乾いたダークな精神の殺人者を描いた内容(違う意味では「復讐するは我にあり」;79今村昌平監督が有る)で、永井監督の冴えた演出が内容はどうであれ、一気に見せていく手腕により異色のサスペンス物として見応えあるものとなっていた。映画初出演のFukaseの感情を喪失した若き殺人者の乾いた言動が、この作品をより怖いものにした出色の演技ぶりを見せてくれるのだ!賛否両論がはっきり別れると思うドロドロとした内容の作品だが、好き嫌いは外に置いて<見せる映画>になっていたのです!
ぼくのチケット代は、2300円出してもいい作品でした。
星印は、3ッさしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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