二次大戦中、ユダヤ人の【強制収容所】での抹殺計画を立案したアドルフ・アイヒマン。戦後、アルゼンチンに逃亡していたが、イスラエル・モサドの追跡で逮捕され、1961年イスラエルで処刑され火葬されたと史実は言う。だが、イスラエルはユダヤ教の律法でイスラム教同様、死者の火葬が禁止されており、イスラエル国内で『火葬設備』が存在しないのだ。では、誰が、どうやってアイヒマンの遺体を<火葬>したのか?この作品は、この遺体処理の極秘のプロジェクトを知らずに巻き込まれた庶民の人々の姿や、アイヒマン最後までの舞台裏をドラマティックに描いていくのです。
極貧のリビア系少年・ダヴィッドは万引きしたことから、工場を経営する粗暴な男・ゼブコからヤバい仕事をさせられる。その男の戦時中の友人・ハイムはモロッコ系のユダヤ人で、アイヒマンを収容している刑務所の刑務官で、ゼブコに大型の焼却機械を作成してと依頼してくる。焼却機械の内部は小さな男が必要となりダヴィッドが雇われる。ハイムは、アイヒマンを厳重に見張る将校で責任の重さから幻覚症状を起こしている。秘匿情報を守るハイムは、友人のゼブコにも焼却機械がアイヒマンに使う器具とは漏らさず命令に従う。一方、ホロコーストの生存者であるミハは、裁判でアイヒマンを尋問した若き捜査官で、勇気ある行動と称賛されるが、心にフラッシュバック症状を持ちながら毅然とした態度で世界各国のジャーナリストのつらい体験を述べている。何に使うのかも知らない民間の工場従業員たちと喜々として働くダヴィッド、心が緊張で折れ曲がるハイム。心にホロコーストの傷跡を残すミハ。庶民の複雑な心の傷跡を残しながら、アイヒマンの処刑がはじまる。その日は1961年の【6月0日】の【日付無し】の日だった!!
ジェイク・パルトロウ監督が、死刑が廃止され、火葬が行われないはずのイスラエルで、アイヒマンが処刑後直ちに火葬されたという史実と、イスラエル律法の矛盾に興味を抱いてリサーチされたこの作品は、建国したばかりのイスラエルの激動の時代を世界中から集まったユダヤの民の庶民の目線から描いていくのです。歴史の渦に巻き込まれたユダヤの民のたくましい生き方を活写していく内容は、イスラエル建国当時の有様を、アイヒマン裁判を傍系にしてそこに住む庶民の姿を活き活きと描く見ごたえのある作品でした。
ぼくのチケット代は、2400円出してもいい作品でした。
星印は、4ッ半さしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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