伝える者の主観だけで突っ走るツイッターというニューメディアの恐怖を描いたこの作品は、現代の日本社会の他人の尻馬に乗る無責任な短絡的思考の暴発の怖さというものを存分に表現した内容となっている。
とある地方都市にある国定公園から、体中を刺された上に焼かれた死体が発見された。
警察の調べで、被害者は日の出化粧品メーカーに勤務する三木典子と判明する。
有名な化粧品メーカーの美人社員とあってテレビ局のワイドショーは、この残虐な殺人事件をこぞって報道する。
情報番組を担当する制作会社のTAGの契約社員・赤星雄治に大学時代の知人で日の出化粧品の社員・狩野里沙子からケータイに連絡が入った。里沙子は警察から事情聴取を受けたのだ!そして、まだ表沙汰になっていないが社内に犯人がいるらしい、と言うのだ。
里沙子は赤星に、自分の考えでは犯人は事件以来欠勤している同僚の城野美姫と思うと告げる。スクープだと興奮した赤星は、里沙子を通じて会社の同僚などに独自の取材をはじめた。その過程を赤星は、ラーメン・グルメをしていた自分のツイッターに報告していく。今までのグルメ報告と違う赤星のツイッターに次々と同調者が美姫を犯人だと断定する激しい非難の言葉が並びはじめた。同時に赤星がディレクターとしてTAGの制作するワイドショーに美姫が犯人と勝手に憶測される番組が組まれる。
ツイッター、ワイドショー、燎原の火のように美姫が犯人として確定したかのような報告が、警察の捜査をそっちのけにしてメディア上に駆け巡りはじめた。
だが憶測の範囲内だけで美姫の犯人説を断定する赤星の軽薄な姿勢にもツイッター上で抗議の声もあがりはじめ、事件の真相は混乱しはじめた。
その頃、美姫は東京のビジネスホテルで、世間の興味本位の魔女狩りに怯えながら手記を書きはじめていた。そして、最後に現れた本当の事件の真相とは・・・・?
美姫というひとりの人格を無視して、勝手に犯人と断定した赤星の雑な取材上で踊る証言者の歪んだ美姫像、そして興味本位のツイッターやワイドショーのお祭り騒ぎ、などを美姫の虚像と共に描写しながら、じわじわと重層的手法で本質に迫っていく演出を中村監督は、静かな怒りを持って丁寧に描いていった。
現在の多層的情報社会において、一歩その出発点を誤れば情報というものはすこぶる危険な諸刃の剣であることを、エンタティメントな作品で表現したことは評価できる!
ぼくのチケット代は、2,300円出してもいいと思う作品でした。
星印は、4つさしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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