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アルゲリッチ 私こそ、音楽!

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   2014/10/07

衛藤賢史のシネマ教室

1995年に創設された「別府アルゲリッチ音楽祭」で、大分県の人にとって馴染みとなった天才ピアニストのマルタ・アルゲリッチの娘であるステファニー・アルゲリッチが、秘密のヴェールに包まれたマルタ・アルゲリッチの私生活を娘の目を通して追いかけたドキュメンタリーである。
監督であるステファニーの出産シーンから始まるこのドキュメントは、ただ世界最高のピアニストとして50年以上世界に君臨した天才音楽家の演奏会を視聴させる試みの作品とは違っているのです。
常人とは規格外の天才の娘として生まれたステファニーが、出産によって母となった時、改めて母でありながら神から天賦の才を与えられたピアニストという、公と私の極端に乖離したマルタを、私生活といういわば地上世界の母・マルタと、天上世界に存在する天才ピアニストのマルタ・アルゲリッチをスケッチしながら、その極端に乖離した二面性を奔放に自在に行き来する神から祝福された天才を、娘の目を通して私生活を観察し母としてのマルタを理解していこうとする作品なのだ。
だからマルタ・アルゲリッチのすばらしい演奏の数々を堪能したかった、というファンにとっては少し失望するかもしれない。
もちろん、全曲を通して鑑賞できないけれども、過去の演奏会の様子は随所にはさまれているし、ステファニーの父であるスティーヴン・コヴァセヴィッチのピアノ演奏もあるのでそれなりに満足できると思うが、それ以上にマルタ・アルゲリッチとステファニーの会話で、マルタの数奇な生き様とそのアイデンティティがくっきりと浮かび上がる様子は感動するに違いない。
そして、長女リダ・チェン、次女アニー・デュトワ、三女ステファニー・アルゲリッチと母・マルタとの成人になってからのつき合いのシーンなど、マルタの知られざる一面が見られるのも、マルタ・アルゲリッチのファンにとって、演奏を聴く以上の感動を覚えると思う。
そういった意味で、この作品はアルゲリッチという大地母神を囲む家族の絆を描いた作品となっているのだ。
ラスト近くの「別府アルゲリッチ音楽祭」のシーンが、挿入される演奏会シーンよりも多めにあるのも大分県人にとってうれしい内容となっている。
ぼくのチケット代は、2,300円出してもいい作品でした。
星印は、4つ差し上げます。

5点満点中4点 2300円

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