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紙の月

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   2014/11/18

衛藤賢史のシネマ教室

昨年『桐島、部活やめるってよ』で日本アカデミー賞監督賞を獲得した吉田監督の作品である。
今回も角田光代の原作を大胆に改変し、宮沢りえ扮する主人公・梅澤梨花の行動に焦点を当て、銀行内の描写や同僚の大島優子の相川や小林聡美の隅などを映画オリジナルとして登場させながら、角田の原作の小説的煩雑さを整理し、映画という視覚的表現での効果を狙った野心的作品にしている。
バブルが崩壊した1994年、夫・文夫との間に子どもは恵まれなかったものの、中流の生活を営む梨花は契約社員として銀行に勤務していた。清楚で真面目な梨花の勤務ぶりは外回りの営業でも評判がよく、生活に余裕のある老人層からの信頼もあり個人契約を多く獲得していた。そのため次長の井上や窓口係の相川恵子などから親しまれていたが、古参の後方事務員の隅より子は教育係として厳しい態度をとっていた。
ある日、梨花は平林という老人の孫である光太という若者に、平林のいやらしい態度から助けられる。そして偶然駅で再会した光太の梨花への慕情を察し、導かれるように光太と逢瀬を重ねるようになり関係を持ってしまう。そんな光太が父がリストラされ学費を払えず大学3年で退学しようとするのを知り、平林からの定期がキャンセルになったという方法で200万円を手に入れ光太に渡す。愛する光太を救う手段であったが、銀行の金を横領した梨花はもう精神的にタガが外れてしまう。夫・文夫の上海転勤にも帯同せず、つぎつぎと不正を重ね、横領した金で光太と一緒に高級ホテルでの贅沢な宿泊を楽しむ梨花。梨花の中で己の日常と非日常の感覚が麻痺し狂いはじめる。そんな状態の梨花に疑惑のまなざしを向ける隅より子がいた。そして・・・・。
目の前で扱う紙幣が紙切れという物になっていく過程を、梨花と銀行内の生活ぶり、夫との穏やかな生活の中でオンナではなく物と化していく夫婦の距離感、そして若い光太との出会いによってオンナとしての自分を取り戻す様を描写していくことで、梨花の中で眠っていた精神の閉塞感が、金という紙の媒体を通して溶けていく様子が怖いほどの克明さで観客であるぼくらに突きつけてくるピカレスクなのだ。
そしてラスト、梨花がいわば合わせ鏡のような隅より子に「私と一緒にくる?」と決然たる表情で言うシーンの梨花の嫣然さが、この作品のすべてを物語るのではないだろうか!
ぼくのチケット代は、2,300円出してもいい作品となっています。
星印は、4つ差し上げます。

5点満点中4点 2300円

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