人が生前、誰から愛され、誰を愛したのか?死後、他人の記憶から忘れ去られようとした人たちを悼む旅をつづける青年の行動を通して、<生>と<死>そして<愛>の概念を追及しようとした天童荒太のベストセラー小説を映画化した作品である。
坂築静人は、祖父の死、親友の死を悼みながら、日常生活の中で死者への気持ちが遠くなったことに愕然とする。そして、その思いから、亡くなった人の<愛>にまつわる記憶を心に刻みつけることを自分の命題としての巡礼行への旅をつづけていた。
そんな静人の行動を偽善的な物として考える雑誌記者・薪野抗太郎の心はねじ曲がっている、幼い頃からの父との確執で世間に斜に構えて暮らす生活で露悪的ゴシップ記事を書きつづけ、静人に目をつけ悪意ある取材をはじめる。
奈義倖世は、母からその遺伝子を受け継いだみたいにDV性癖のある男と結婚し、逃げ出してそんな女性たちを保護する施設に入るが世話人の甲水朔也から望まれ結婚したのだが、虚無的性格の朔也から自分を殺してくれと頼まれついに応じてしまう。殺されることによって倖世の心に永遠に止まることを望む朔也の亡霊に付きまとわれた彼女は、<悼む人>の静人に救いを求め、その旅に同行する。
その頃、静人の母・巡子は末期癌と真っ向から戦っていた。静人の妹・美汐は兄の巡礼行が原因で妊娠中なのに封建的な名門の婚約者から解消を告げられる。そんなふたりを静人に代わって支える父・鷹彦と、そんな男を紹介したことを悔やむ従兄弟・怜司。
己への<愛>家族への<愛>を封印し、<悼む人>としての旅をつづける静人への巡子の母としての願いはただひとつ「誰かを愛して欲しい」ということだった。
そして旅をつづける静人と倖世は、いつの間にかお互いに心が惹かれはじめるが、己への<愛>を封印した静人と、夫・朔也からの呪縛に苦しむ倖世は心を解き放つことが出来ない。そして、それらの諸々が絡み合うとき・・・。
日本の地方の風景はこんなに美しいのか!と思う幻想的風景の撮影の下に、それぞれの悼みが展開するこの作品は、静人を軸としながら同時に傍観者としての役割で、いわばオムニバス的描写により、人間の<生><死>そして生者・死者が抱えた<愛>の物語となっている。そして<愛>の底に潜む繊細で複雑な<慟哭>の物語ともなっているのである。俳優陣はそれぞれ入魂の演技をしていたが、特に大竹しのぶの演技は秀逸だ!
ぼくのチケット代は、2,200円出してもいい作品でした。
星印は、4つ差し上げます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
©2024 Oita Broadcasting System, Inc. All Rights Reserved.