さだまさしが、1987年に発表した楽曲「風に立つライオン」は、アフリカ・ケニアで医療従事した柴田紘一郎医師(宮崎県出身)の話にインスパイヤーされて作ったものである。その詩に感銘を受けた大沢たかおが、さだまさしに小説化・映画化を熱望して始まった作品がこれである。
1987年、長崎大学病院に勤務する外科医・島田航一郎は、長崎大学のケニアにある熱帯医学研究所に同僚の青木克彦と共に派遣される。子供の頃、母から誕生日プレゼントされた<シュバイツァー博士>の伝記に感銘し医師となった航一郎は喜んでケニアに赴いた。航一郎は恋人である秋島貴子を一緒に行こうと誘うが、長崎の離島で診療所を開設している父の跡を継いで僻地医療を目指して医師となった貴子は、悩んだ末にケニア行きを断る。それが航一郎との別れになることは覚悟のうえの決断だった。
ケニアで航一郎と克彦は、研究所所長の村上博士の真摯な研究態度の下で研鑽に励む。しかし、ケニアの医療の遅れから研究だけでなく実践的医療にも携わらなければならない。毎日が目の回るような忙しさの中、航一郎と克彦は懸命に働き村上所長の信頼を得る。そんな時、ふたりは、スーダンとの国境沿いにある赤十字戦傷病院への応援出張を所長から依頼される。この医療所はスーダンの内戦で傷ついた兵士たちを治療する施設で子供たちも多く入院していた。医療設備の乏しい中、医師・看護師たちは救える命は一人でもと働く姿に航一郎は感動する。そこにマザーテレサ終末病院から派遣された日本人看護師・草野和歌子のキビキビ働く姿があった。短期出張を終えた航一郎と克彦だったが、航一郎は再び志願してこの危険な医療所に戻ってくる。絶望的状況の中、明るく子どもたちを勇気づける航一郎の献身的治療に和歌子は好意を持つ。少年兵士として麻薬漬けにされたンドゥングもそんな航一郎に徐々に心を開く。しかし医療所だけでなく村まで出向いて診察する航一郎はスーダン国境に近い村に自発的に行ったとき…。
ケニアでの航一郎・和歌子、離島での貴子の姿を交互にそして時系列を少しずつ過去・現在と織り混ぜながら進行するこの物語は、すべての場所に住む人々の命の尊さ!を謳い上げながら、命だけでなく心をも救いたいと願う治療する者の博愛的精神の姿を、ドキュメントに近い演出で、リアルに淡々と描く手法に好感を持てる佳作となっている。
ぼくのチケット代は、2,200円出してもいい作品でした。
星印は、4つ差し上げます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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