世界三大美術館と称されるルーブル、プラド、ウフィッツに比べて小規模であるが、選りすぐりの作品を所蔵しているロンドン・ナショナル・ギャラリーは、その経営センスと展示の品のよさで美術ファンにとって、一生に一度は訪れたい美術館のひとつである。
そのナショナル・ギャラリーに入り込んで撮影日数3か月の間に170時間数撮った中から、ドキュメントの巨匠F・ワイズマン監督が、181分にまとめた作品である。
ワイズマン監督が撮るからには、単なる興味本位の美術館の紹介映画でおわるはずがないと思っていたが、これは文化という立場から真摯な態度で美術館を経営し守り抜くために日夜奮闘するナショナル・ギャラリー・スタッフの人間味あふれる日常活動の記録であり、同時にナショナル・ギャラリーに所蔵される美術作品へのスタッフと観客の愛情と尊敬の心を描写する斬新な切り口の作品となっていた。
ナショナル・ギャラリーは、現在は英国国立美術館であるが、19世紀にジョン・J・アンガースタインという銀行家でロイズ保険組合にも関係した一市民の集めた38点のコレクションに起源を持つ美術館だ。映画の中でも教育普及担当スタッフが「この美術館ができたのも、かつて奴隷制度に関わったロイズがあってのことであり、その恥の歴史を忘れてはいけない」という言葉が印象に残るだろう。
ともあれ、現在2,300点以上の所蔵作品を持つナショナル・ギャラリーなので、この作品では、その内の数十点が紹介されることになる。しかしその紹介は学芸員や修復担当スタッフが、その内の数十点が紹介されることになる。しかしその紹介は学芸員や修復担当スタッフが、観客や仲間を相手に<語る>という手法の中で美術作品が登場する。
たとえば、ルーベンスの「サムソンとデリラ」においての光の描写の学芸員の解釈を観客に<語る>シーンや、ピサロの「夜のモンマルトル大通り」でのピサロの目線の演出を<語る>シーン、レンブラントの「馬上のフレデリック・リヘル」をX線で照射すると絵の下地に立ち姿の別の男の絵が描かれていることが判明し、その美術上の解釈を修復家が<語る>シーンなど美術ファンにとってたまらない魅力の演出である。
もちろん映画でこれだけにとどまらずダ・ヴィンチの「岩窟の聖母」、ターナーの「解体のための最後の停泊地に引かれていく戦艦テメレール号」の黒い絵の具の解釈などなど、興味津々の描写の連続に深い満足感を覚えること確実であろう。
美術館の持つ文化的役割を知性的に演出したワイズマン監督の手腕に敬服できる内容となった作品であった。
ぼくのチケット代は2,400円を出してもいい作品となっていました。
星印は、4つ半差し上げます。、
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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