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青くて痛くて脆い

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   2020/09/08

衛藤賢史のシネマ教室

住野よるの小説「君の膵臓を食べたい」の映画化は<キミスイ>と呼称され大ヒットしたが、つづく同名小説の映画化によるこの作品は、前作とはまったく異なる主人公の青年の鬱屈した心の変容の軌跡をサスペンス・タッチで描いた内容となっている!

大学1年の田端楓(吉沢亮)は、他人との接触が苦手で常に心にバリアを敷いてひとりぼっちの生活をしてきた。そんな楓が大教室の講義中に突然手を挙げ世界平和について質問する女子学生の場の空気を読まない突飛な行動に目を見張った。そんな女子学生が大学食堂の片隅でひとりで昼食の楓に気安く近づいてきて声をかけてきた。それが楓と秋好寿乃(杉咲花)との出会いだった。真逆の性格故に共に周囲の学生から浮いた存在のふたりは、まるで磁石の陰と陽のようにくっつく友人となる。常に行動的に動く陽気で活発な寿乃に引きずられるように楓は、<世界を変える>と理想を掲げる[秘密結社サークル<モアイ>]をふたりだけのメンバーで立ち上げる。ふたりだけの海岸のゴミ拾い、不登校生たちを支える小さな組織の手伝いなど、楓にとって新鮮な生活がはじまった。そして三年後、いつしか<モアイ>は大勢の仲間たちが集結するサークルと化していた。だがそこには楓の姿はなかった。寡黙で目立たない事が信条の楓にとって、大きなサークルとなり当初の理想とかけ離れた<モアイ>にいつの間にか、自分の居場所が無くなっているのを感じたからだった。寿乃とふたりだけの!あの楽しかったサークルの生活に郷愁を抱く楓の心の鬱屈は、やがて<モアイ>というサークルへの怒りと憎しみで暴走がはじまる。同級の友人でエリート・サークル<モアイ>を苦々しく思っていた前川董介(岡山天音)を誘い<モアイ>を破壊する作戦を立てるのだが…。

まだ大人に成り切れない[青い]心の鬱屈から生じる、ヒリヒリと[痛む]孤独な心根の楓が暴走へと疾る[脆い]姿を吉沢亮が押さえた演技で好演している!それは理想への道を信じて[青い]心を失わず活発な行動をつづける寿乃を演じる杉咲花の真逆の性格の演技と対になり、真摯な青春物となっていたのだ!また狩山俊輔監督の描線のみのアニメからはじまるシーンや過去現在を縦横に出し入れしながら、横道に逸れずに楓と寿乃を中心を絞りつつ、上手く脇役たちの見せ場を絡ませる無駄のあまりないセンスあふれる演出によって見応えのある内容となっており、いわば[青くさい]青春物を脱した作品となっていたのだ!

ぼくのチケット代は、2400円出してもいい作品でした。

星印は、4ッさしあげます。

5点満点中4点 2400円

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