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   2020/10/27

衛藤賢史のシネマ教室

辻村深月の同名小説を、河瀨直美監督が演出・脚本・撮影までを担って作られた作品であり、ヒューマンな肌触りを感じさせられる内容となっている。

栗原清和(井浦新)と佐都子(永作博美)の夫婦には子供が出来なかった。一時は子供を持つことを諦めたふたりだったが、ある事から<特別養子縁組>という制度を知り、広島でその施設を運営する浅見静恵(浅田美代子)の仲介により、生まれたばかりの男の子を迎え入れた。朝斗と名づけた子の本当の母は片倉ひかり(蒔田彩珠)という14歳の中学生だった。養子縁組をした時に静恵の提案で清和と佐都子は、ひかりとその両親と対面し清純な面影のひかりの様子に、朝斗と名づけた子をしっかりと育てることを確約して別れた。それから6年。手中の珠として育てた朝斗は幼稚園児となり、清和と佐都子の人生の生きがいとなっていた。ところが、そんなふたりに片倉ひかりを名乗る女性から「子供を返して欲しい。それがダメならお金をください」という驚愕の電話が突然かかってきたのだ。そして清和と佐都子のマンションに訪れた女性には、6年前に会ったあの清純なひかりの面影はかけらもないすさんだ容姿の女性だった。「あなたは、ひかりさんではない。あなたは誰なのですか?何が目的なのですか」と詰問する清和と佐都子だったが…。

子供に恵まれない夫婦と、子供を育てられない種々の事情を抱える母親、との間を取り持つ<特別養子縁組>という法令に乗っ取った運営をする法人団体の活動を縦軸として描いていくこの作品は、14歳という幼い恋の果て妊娠した生みの<母>と、子供に恵まれず他人の子を養子にし心血を注いで慈しむ育ての<母>という、双組の<母>に焦点を定めていく内容となっている。ロング・ショットで撮影される海・森・都会風景の雄大な景観描写。対照的なアップ・ショットを多用する人間描写。この意図的対照によって人間の心の脆弱に迫ろうとする撮影方式。川瀬監督が撮影まで担当したのが読める[母なる海でもあり大地母神]たる<母>の愛の描写となっていたのだ!

ぼくのチケット代は、2400円出してもいい作品でした。

星印は、4ッ半さしあげます。

5点満点中4.5点 2400円

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