資生堂やサントリーなどの広告写真を手がけた写真家・上田義彦が、初めて映画監督に挑戦した作品です。
ある春の日。高台にある木々草木豊かな庭に囲まれひっそりとたたずむ古民家で、49日の法要が営まれていた。絹子(富司純子)の夫の49日法要だ。今はその家に住むのは絹子と、韓国人の父と絹子の長女(その両親共に死去)との間に生まれた渚(シム・ウンギョン)だけ。夫亡き後、絹子と渚は毎日、夫が愛した庭の手入れをしている。法要に東京から参列した絹子の次女・陶子(鈴木京香)は、絹子と渚に自分のマンションで一緒に暮らそうと言うが、絹子は思い出深いこの家から離れたくない。
梅雨。夏を告げる雷雨に藤棚の花が散り雨蛙が鳴く頃、日本語学校から帰った渚の耳に相続税の件で税理士と相談する絹子の悲しげな声が聞こえた。
盛夏。お盆に訪ねてきた夫の親友と、若き日の思い出話しに花を咲かせる絹子の笑顔に安堵する渚。高額の相続税で家を手放す決断を迫られ、すっかり気力を失い元気のなかった絹子のひさしぶりの笑顔で渚もうれしい。だが、その直後、絹子は倒れた。精神的過労が重なっていたのだ。
そして季節は秋から冬へ…。ふたりだけでつつましく暮らす、絹子と渚に決断の時期がくる…。
春夏秋冬の自然描写を丁寧に見せつつ、日本の古民家に住む絹子と渚の立ち居振る舞いを寡黙な台詞で描いていくこの静かな物語は、自然を取り込む日本家屋への愛と、古き良き日本文化へのレクイエムを奏でる作品となっているのです。四季折々の日本の自然描写の豊穣さを背景に据え、散文詩のように進むこの寡黙な物語は、上田義彦監督の写真家としてのフォトアート的作品となっており、その意を汲むかどうかによって鑑賞の仕方が違う作品となっていたのだ!
ぼくのチケット代は、その自然描写の豊かさに2200円出したい作品でした。
星印は、2ッ半さしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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