世界中の美術愛好家なら誰もが知っている葛飾北斎(1760~1849)の生涯を、青年期と老年期に大別して4章に分けて追いかけていく作品となっています。
画の才能は天才的だが唯我独尊で人の言うことを聞かない若き日の北斎(柳楽優弥)は、食べることもままならない困窮生活を送っていた。そんな北斎に、当代随一の浮世絵版元の蔦屋重三郎(阿部寛)が目をつけた。蔦屋に認められた喜多川歌麿(玉木宏)は、美人画で評判をとっていた。しかし、北斎は蔦屋の助言など聞かずに傍若無人の態度を取りつづけていた。そんな北斎の前に蔦屋も驚嘆した無名の東洲斎写楽が現れ、北斎は独創的な役者画に打ちのめされた。一念発起した北斎は、己の画を求めて江戸を離れ艱難辛苦の果て自然の息吹を大胆に活写する風景画を描き、蔦屋の眼鏡に敵う。しかし時代は寛政の改革で庶民の贅沢奢侈を悪とする法令で浮世絵・小説(黄表紙・洒落本・合巻など)も摘発の対象となり北斎はその理不尽さに悩む。壮年に達した北斎は、自分よりも20歳以上年下の柳亭種彦(永山瑛太)とうい合巻本の作者の本を読み感動する。武士でありながら幕府の禁制の合巻本を書きつづけるという反骨魂に共鳴した北斎は自ら進んで挿絵を担当し、以後信頼する友として友情関係を持つ。70歳を迎えた北斎(田中泯)は、脳卒中で倒れ右手に痺れが残る身になる。それでも執念で画業をつづけ、再び旅に出て<富嶽三十六景>の代表作を仕上げる。そんな北斎に種彦が処刑されたとうい衝撃的な報が届いた。信念を貫き亡くなった友を悼み為政者の無慈悲な仕打ちに強烈な怒りに燃えながら北斎は、「こんな日だからこそ、画を描く!」と黙々と描きつづけるのだった。
青年期と老年期を4章に分けて綴るこの作品は、時の為政者の庶民を無視した政策への怒りと、北斎に影響を与えた人々との描写に力を注ぐ内容となっており、いわば北斎を狂言回しとした構成なので、北斎の内面の描写が浅くなっていたように感じたのだ。少し力みすぎたような重苦しい描写がつづくこの作品は、内容的には北斎の画業到達までの道程を描きながら、いつの間にか時の為政者への権力批判へと軸が反れ、結果、テーマの二極分裂(北斎の画業・為政者の権力批判)となり、タイトルどおり北斎の画業やその生涯を見る事を期待した観客の雰囲気を戸惑わせた重苦しい気持ちになりつつ映画館を後にする内容となっていたのだ。
ぼくのチケット代は、2000円出してもいい作品でした。
星印は、2ッ半さしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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