上橋菜穂子の原作による長編小説は、ストーリー構成が恐ろしく入り組んだ内容になっているので、上映時間に制限のある映像化には、原作内容を大胆に省略しながら話を進めて、なお且つ原作ファンにも満足させる至難の業を必要とされるため無理だと思われていた。結論から先に言うと、たくさんの重要登場人物を思い切り省いて、主人公のヴァンとユナに的を絞って、天才医師ホッスルと後追い人サエを絡ませる話にする手法によって、ある程度成功した作品となっていたのだ。
強大なツオル帝国に反抗したヴァンは、地下深く岩塩鉱山で働かされていた。その鉱山に体内にミッツァルを内在する山犬の集団が襲ってきた。山犬の集団に襲われ全員がかみ殺された中、ユナという幼い娘とともに脱出する。ヴァンとユナが助かったのは、ふたりが体内に疫病ミッツァルの抗体を持っていたからだ。ユナと共に逃避行のヴァンは、ユナに父のような愛情を抱き始める。その頃、ツオル帝国中で疫病ミッツァルが蔓延して、皇太子はじめ多くの人々がバタバタと亡くなる事態が生じる。天才医師ホッスルは、ミッツァルの抗体を持つ人からの血液を患者に投与すれば助かるはずだと確信するが、ツオル帝国の宗教ではその行為が禁じられていた。ホッスルは独自に岩塩鉱山から逃れたヴァンとユナが抗体を持つと考えて、追跡の達人である後追い人サエに同行し、二人の行方を探す旅に出る。逃避行のヴァンとユナは、親切な村人から助けられつつ父娘の愛情が深まっていく。しかし、ユナが山犬を扱う謎の組織に連れ去られる事件が発生した。必死でユナの行方を探すヴァン。その中でホッスルとサエに出会う。ヴァンはホッスルとサエを信じて、一緒になってユナを探すが・・・。
原作の内容をコンパクトにしたこの作品は、原作を読んだ人にとっては、物語の複雑な背景を頭の中でつなぎ合わせる事が出来るが、原作を読まずに映像だけで見る人にとっては、多少分かりづらい箇所があるのではないかと思う。それは原作がハッピーエンド物語でなく、示唆に富む流れになっているのも関係があると思うからだ。それを時間制限があり、原作の80%近くを省略せざるを得ない映像化に挑戦した意欲に素直に評価したい作品になっていたのだ!
ぼくのチケット代は、2200円出してもいい作品でした。
星印は、4ッさしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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