パレスチナとイスラエルの紛争解決は、絶望的に道が見えない現状が続く。この物語は、そんな両民族の音楽家を夢見る若者を集めて、オーケストラを結成しようと図るドラマとなっている。
世界的指揮者で大学教授のスポルク(ペーター・シモニスチェク)は、パレスチナとイスラエルの若き音楽家を集めてオーケストラを結成して、平和を祈念するコンサートを開催するという企画を引き受ける。この困難な企画を引き受けた理由はスポルクの過去にあったのだ。テルアビブでの厳しいオーディションを勝ち抜き、プロの音楽家を目指す20余人の若者だったが、バイオリンのマスターに指名されたパレスチナ女性レイナに、イスラエル人のロイが反発することによって、お互いが罵り合うケンカが発生する。そんな事態を織り込み済みのスポルクは、スイスの南チロルでの21日間の寝食を共にする合宿に連れ出す。そして、お互いの音色を確かめ合わせつつ、若者たちの本音を語らせあう。少しずつ氷のように固く閉ざした心の壁を溶かしていき、互いの技量や人柄を認め合いはじめる若者たち。しかしコンサートの前日、ようやく心が一つになりかけたオーケストラのメンバーやスポルクにも、想像しなかった事件が起きたのだ・・・。
大好きな音楽を通して、パレスチナとイスラエルの若者たちが心を通わせるあうという、甘ったるいドラマを期待すると、のっけから裏切られる内容となっているのです。長年にわたって、憎しみを心に抱え込んだ若者たちが、お互いに相手をさげすみ怒りを爆発させつつオーケストラなどそっちのけでいがみ合うのに、見る人は心を痛めながら見らなくてはならないのです。そして、ドイツ人(オーストリア人かも)である、スポルクの過去のつらい体験も含まれる重層的な歴史のむごい流れも加わり、過去を引きずりつつ生きる現代の人々の苦悩が浮き彫りにされるのです。後半の南チロルの雄大で神秘的な風景は、この世界に生かしてもらえながら<増悪>という感情で<破壊>に走る人間を諫める寓意的なシーンでもあり、それだけにラストシーンの感動は見る観客の心をはげしく揺さぶってくれたのだ!!
ぼくのチケット代は、2500円出してもいい作品でした。
星印は、5ッさしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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