『別離』『セールスマン』の作品で、アカデミー賞外国語映画賞を2度獲得したアスガー・ファルハディ監督の作品です。
イランの古都シラーズに住むラヒム(アミール・ジャディディ)は、借金の罪で服役していたが、数日の仮釈放をもらい婚約者と会う。彼女は偶然にもかなりの量の金貨が入っているバッグを拾っており、借金を返済すれば刑務所を出所できるラヒムにとっては喉から手が出るような出来事だった。しかし、そのことに罪悪感にかられたラヒムは、落とし主を探して金貨を返すために街のあちこちに張り紙貼り、落とし主を探しはじめた。そのかいあって、金貨は落とし主に戻された。しかし、ラヒムは落とし主に会えず、対応したのはラヒムの姉と吃音障害のあるラヒムの子供だけだった。それがのちの混乱を招く原因になることもなるのだ!その善なる行為を知った刑務所長は、ラヒムの行為をメディアに知らせる。テレビに出演したラヒムは<正直者の囚人>として一躍ヒーローになる。だが、落とし主の顔を知らないラヒムのテレビでの態度は、SNSを介して広まったある噂をきっかけに状況は一変し、周囲の狂騒に翻弄されはじめる…。
ラヒムの行動を通して、姉夫婦家庭や吃音障害の息子や、刑務所幹部の思惑、加えてラヒムを表彰しようとする富裕層のチャリティー団体の動きなど緻密な描写で描いていくこの作品は、メディアやSNSの絶大な影響力に着目しつつ、情報に踊る人間の愚かさを啓発しようとする姿勢が見える内容となっているのだ。イランの刑法を知らない日本人の僕らにとって、目をパチクリさせるシーンも多多ある内容であるが、善なる心を通そうとするラヒムの小さな嘘が波紋を呼びつつ、ラストのラヒムの心の筋目を通す態度で、ファルハディ監督のそれでも人間を信じたいという気持ちが強く伺える作品になっていたのです!
ぼくのチケット代は、2200円出してもいい作品でした。
星印は、4ッさしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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