水墨画の世界を描いた砥上裕将の同名小説を、『ちはやふる』で百人一首競技を描いた小泉徳宏監督が、同じく日本独特な文化である、墨一色で世界観を描く水墨画芸術に挑戦した作品です。
大学生の霜介(横浜流星)は、アルバイト先の絵画展設営で、一輪の花のみ墨一色で描いた絵画に心を奪われた。家庭の不幸で空洞化した心の霜介に、激しく訴えかける白と黒のみで表現される水墨画に自分の心が同調され、思わず涙を流す霜介を、ひとりの老人が静かに眺めていた。その老人は設営の休憩時間に霜介に声をかけ、突然弟子になれと言う。実はその老人は水墨画の巨匠・篠田湖山(三浦友和)であり、霜介が見ていた水墨画は湖山の孫・千瑛(清原果耶)の作品だったのだ。戸惑いながら霜介は、湖山の自分の心の内を見通すような慈愛ある表情に惹かれて仮弟子になる。湖山は右も左もわからない初心者の霜介に、無心に線を引く筆の動きだけを教えていく。住み込みの気さくな湖山の弟子(江口洋介)に可愛がられ、霜介は自分の心の内を描く水墨画の世界に魅了されのめりこんでいく。日増しに表情が明るくなる霜介に、安堵した大学の親友の古前(細田佳央太)と川岸(河合優里)は、霜介のために<水墨画サークル>を立ち上げ、千瑛を講師として招く。初心者の霜介を可愛がる湖山と弟子に複雑な心境の千瑛だったが、この出来事でおたがいの距離も近くなっていくのだった。そんな折、フランス大使も来賓する、大事な『湖山会』絵画展が開催される。しかし、中心の湖山が会場に姿を現さないのだ!騒然となる会場!湖山が意識不明の重体に陥っていたのだ・・・。
日本人にも縁遠い水墨画の墨一色の奥深い芸術の世界を、心に深い悔恨と喪失感を抱える若者の、悲しい心の壁を同時に描いていくこの作品は、むつかしい描写は極力避けて水墨画の魅力を啓蒙していく内容となっていたのだ。淡々と水墨画を修行する霜介を演じる横浜流星の静かな演技は確かであり、隠し味の住み込み弟子の江口洋介の演技も楽しませてくれるのです。心の癒される作品でした。
ぼくのチケット代は、2100円出してもいい作品でした。
星印は、3ッ半さしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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