山田洋次監督の91歳にして90作目の作品です。座席数の多いシネコンで、半分以上の観客数が埋まっており、コロナ禍の中寂しい数の映画館に通っていた僕にとって、改めて山田監督の人気のほどを感じる作品となっていました。
大会社の人事部長をしているエリート・サラリーマンの神崎昭夫(大泉洋)は、職場の仕事で日々神経をすり減らしている。家庭内では妻との離婚問題で別居生活を強いられ、大学生の娘(永野芽郁)との価値観の違いからくる微妙な関係で頭の痛い毎日を送っていた。加えて、大学同期で親友(宮藤官九郎)のリストラを、会社の人事部長として決断を迫られているのだ。思い悩む昭夫は、久しぶりに下町で亡き夫が「足袋屋」をしていた実家に住む母・福江(吉永小百合)を訪れる。「こんにちは、母さん」しかし、迎えてくれた母の様子が、どうもおかしいのだ。いつも割烹着の地味な服装の姿の母が見慣れぬ洋装で、近所の友人たちとホームレス支援をイキイキしながらしているのだ。そしてそこには、娘まで住んでいたのだ。母がホームレス支援を主催する、初老の教会の神父(寺尾聡)に恋していると、娘や友人のおばちゃんたちから知らされた昭夫はカッとなる。久々の実家にも一人息子の自分の居場所がなく、戸惑う昭夫だったが、昔ながらの気質でつき合う下町の温かい友人たちの分け隔てのないつき合いに触れていくうちに、昭夫はしだいにエリート・サラリーマンゆえに見失っていた自分の傲慢な態度に気づいていく。日本の世間の思いは思いやりとあると・・・。
山田監督の吉永小百合主演の『母べえ』『母と暮らせば』に続く<母・3部作>に当たるこの作品は、永井愛の戯曲『こんにちは、母さん』を原作としている。恋する純情な初老の母の可憐な思いに漂う、年取る寂しさを滲ませながら神父との別れを、一人息子に告白するラスト・シーンに山田監督の思いが強く感じる作品であったのだ!
ぼくのチケット代は、2200円出してもいい作品でした。
星印は、3ッさしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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