青森県の弘前に伝えられる日本が誇る伝統工芸【津軽塗】は、通称【バカ塗り】と言われる<塗っては研いで、塗っては研いでを繰り返す>根気のいる漆器である。この作品は、【津軽塗】が繋ぐ父娘の物語である。
弘前に住む青木家は、代々【津軽塗】を営む漆器職人の家系。名人と謳われた祖父は高齢になり高齢者センターの世話になり、美也子(堀田真由)は祖父の跡を継いだ父・清史郎(小林薫)との二人暮らしをしながらスーパーで働き、その合間に【津軽塗】の仕事を手伝う毎日を送っている。美也子の母は、津軽塗一筋の父を見限り家を出ていき、地元の国立大学を出た兄は家業を継がず自由に生きる道を選んでいた。美也子は幼い頃から【津軽塗】が好きだったが、父・清史郎は何十年に渡って職人一筋をする仕事に娘・美也子を跡継ぎにするのに反対していた。ある日、廃校になった自分が通った小学校に置かれたピアノに【津軽塗】が使用されているのを見た美也子は、その【バカ塗り】でする塗り替えの【津軽塗】を考え、市役所に相談し、ひとりで【バカ塗り】塗り替え作業をはじめる。日本で廃れていく日本の伝統工芸が誇る漆器の鮮やかな色彩が、この見捨てられたピアノから蘇る!!ネット上で紹介されたこのピアノ、瞬く間に広がった日本の漆=japanの華麗な色彩を知った外国の人々からの称賛の嵐!!陰から見守った父・清史郎や弘前の市役所は、改めて日本の伝統工芸の凄さを知らされる。そして、美也子は・・・。
鶴岡慧子監督が描いていく物静かな描写によるこの作品は、美也子を演じる堀田真由の清楚な演技と相まって、日本から消えていく手作りの職人技の繊細な美しさを哀惜を込めて描かれていくのだ。伝統工芸や着物の日本の文化を担う人材=手作りの職人の生きざまの苦しみ悲しみを、声高に述べる描写ではなく、淡々と日本伝統を伝える職人の仕事ぶりを、きめ細やかな演出によって丁寧に描いていく内容に、心から共感できる作品になっているのです。
ぼくのチケット代は、2400円出してもいい作品でした。
星印は、4ッさしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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