五十嵐大のエッセイを呉美保監督が映画化した作品です。<きこえない世界>の母と<きこえる世界>の息子が織りなす物語を静謐な手法で描いていく作品です。
宮城県の小さな漁港、ひとりの男が黙々と漁船の掃除をしている。五十嵐家に男の子が生まれた。祖父母、両親はその子供に“大(だい)”と名付け近所の人々と宴会している。どこにでもある普通の景色、ほかの家族と少しだけ違っていたのは大の両親の耳がきこえない事と祖父(でんでん)が身体に彫り物をした元暴れん坊だった事。幼い大の日常生活は、自然に覚えた手話で大好きな明るい性格の母・明子(忍足亜希子)の買い物で手話の通訳をすることと、物静かな父(今井彰人)と祖父母の会話を両方の間に立ち伝えることだった。そんな生活が大の日常生活だったのだ。しかし、思春期に入り大(吉沢亮)は、町の人から大の家庭の生活を特別視されることに、自分の家庭に戸惑いや苛立ちを感じはじめる。明るくて屈託ない母の明子にすら疎ましくなる毎日を送っていた。そんな気持ちで受験に失敗した大に、父は手話で母の明子とろうあ学校で出会い激しい恋をして駆け落ちした話をしてくれた。過去の両親の恋の話に感動する大は、20歳になった時に両親から逃げるように上京し、誰も自分の生い立ちを知らない東京で転々とアルバイト生活をしていく。そこで知り合ったろうあの男女の屈託ない生活ぶりに感心し、いかがわしい雑誌を出すアルバイト先の先輩たちのたくましい生き方に感動し、成長していく。そんな折、父が病気になり帰省した大は、母・明子の自分への言葉で出せない愛情の想いを痛切な気持ちで感じるのだった。うらさびた故郷の駅で見送る母の後ろ姿を眺めながら涙する大。
呉美保監督が静かな描写で<きこえない世界>と<きこえる世界>を行き来しながら、自分の居場所を模索しつつ成長していく若者の心を描いていくのです。それに加えて、言葉で伝えられない母の情愛の“想い”が全編を通じて感じさせる作品となっているのです。
ぼくのチケット代は、2300円出してもいい作品でした。
星印は、4ッさしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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