忘れたい過去の【記憶】を抱える女性と、忘れたくない過去の【記憶】を失っていく男性が出会い、互いに支えあいながら、明日への【希望】を見出していく姿を描いていく作品です。
NYの片隅にある町で13歳の娘・アナと暮らしているシルヴィア(ジェシカ・チャステイン)は、ソーシャルワーカーとして働いている。高校の同窓会に出席したシルヴィアだが、一人の男が帰り道に黙ったまま後をつけてくる。気持ち悪さにシルヴィアは、住んでいるアパートの鍵を閉め様子を伺うが、男はアパートの前で寒いのに一晩中寝ている。翌日の朝、寝ている男を通報すると、【若年性認知症】で記憶障害を抱えるソール(ピーター・サースガード)だと判明する。シルヴィアがソーシャルワーカーと知った家族から、ソールの面倒を見るように頼まれる。記憶の糸が切れ切れのソールは、シルヴィアと娘・アナだけには親しみを憶え、その記憶もしっかりしていた。シルヴィアは、ソールの穏やかで優しい人柄と、彼が抱える病気への抗えない運命への哀しみに触れる内に、ソールに魅かれていく自分の心を知る。シルヴィアも、忘れたい過去の【記憶】の傷痕を心に抱えて生きていたのだ!!それぞれに自分の殻に閉じこもり生きてきたシルヴィアとソールは、互いに寄り添いながら、自身のこぼれていく過去や、忘れられない傷痕を引きずる過去よりも、【明日】への人生に真摯に向き合おうとするのだが・・・。
ミシェル・フランコ監督は、社会の片隅に生きる中年男女の【愛】の流れを派手なエピソードもなしに静かな描写で描いていくが、その背景に家族愛の断絶していく世界の悲しさや、弱者への不寛容な世界への問いかけが、声高なメッセージなしに込められているのだ!!映画のタイトルの『あの歌を憶えている』は詩的な美しさを感じるが、原題の『Memory』が映画の内容に合っているかも?
ぼくのチケット代は、2300円出してもいい作品でした。
星印は、3ッ半さしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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