田中陽造のオリジナル脚本を、根岸吉太郎が18年ぶりに監督した文芸大作です。大正期から昭和初期の京都・東京の景観をオールセットで再現し、実在した女優・長谷川泰子と、詩人・中原中也、文芸評論家・小林秀雄の狂おしい愛と青春を描いていく作品です。
京都。洋物の舞台女優を志す長谷川泰子(広瀬すず)は、一夜の宿として学生の中原中也(木戸大聖)の下宿で目を覚ます。泰子20歳、中也17歳、一夜の宿のはずだった泰子は、中也の只ならぬ才能に魅かれ虚勢を張りあいながら一緒に暮らし始める。泰子は中也の才能に張り合うように映画女優として働きはじめる。
東京。泰子と中也が引っ越した家に、23歳の気鋭の文芸評論家・小林秀雄(岡田将生)が訪れる。秀雄は詩人としての中也の才能を誰よりも認めており、中也も批評の達人である秀雄に一目置かれることを誇りに思う仲だった。中也と秀雄の仲睦まじい様子を目の当たりに見た泰子はやきもちを焼く。だが秀雄は、男に従属しない一人の独立した個人観を持つ女性としての泰子に魅かれていく自分の心を知る。奇行な行いと天才的な詩を書く中也と泰子がケンカの絶えない間柄の時に、秀雄は泰子に愛を告白する。泰子は秀雄の元にはしり、秀雄と暮らしはじめた。泰子を真ん中に置く、中也と秀雄のいびつな正三角形な関係。しだいに壊れていく泰子・中也・秀雄の心。そして・・・。
若きふたりの天才に愛の行き来する、確固とした自我を持つ女優の愛情を描くこの作品は、哀しみの【愛】の話でなく、ピュアな心根に宿る【愛】を描いていくのです。オールセットで撮影される、流麗なカメラワークに酔いながら、『ゆきてかえらぬ』二度と戻ることのできない凝縮された時間の中を生きる、稀有な若き天才ふたりと、我自ら生きる独立した心を持つ女性の、三人三様の【愛】を描いていくのです。抜けるように青い空に煙となり消えていく中原中也の夭折(30歳没)、【僕はこの世の果てにゐた、陽は温暖に降り洒ぎ、風は花々揺すつてゐた】の詩に涙したのだ。
ぼくのチケット代は、2200円出してもいい作品でした。
星印は、3ッさしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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