2022年に公開されたフランス映画『パリタクシー』を基に、山田洋次監督が日本風にアレンジした作品です。
東京で個人タクシー運転手をしている宇佐美浩二(木村拓哉)は、85才の高野すみれ(倍賞千恵子)を、東京柴又帝釈天前から神奈川の葉山にある<高齢者施設>までを送る一日中の仕事をイヤイヤながら引き受ける(ギックリ腰になった仲間の代わりなのだ)。浩二は、愛する娘の音大付属の学費を捻出する必要があったのだ。85才とは思えないほど元気なすみれの『東京の見納めに、葉山に行く前にいくつか寄ってみたい場所があるの』という頼みを、優しい性格の浩二は引き受ける。東京のすみれの思い出の場所を回りながら、浩二はバイトをしている妻・薫(優香)に『お客の女性から頼まれ、寄り道するので遅くなる』とケータイで知らせてヤキモチを焼かれるが、すみれから『奥さんとは愛し合っているのね』と言われ、浩二のぶっきらぼうな返事に、すみれはなぜか叱る。そして、すみれは自分の過去を話しはじめる。東京大空襲の戦中から戦後の苦しい暮らしや、恋した男の話など若き日のすみれ(蒼井優)の、壮絶な過去の話に運転しながら聞き入る浩二。行きずりの客として思っていたすみれの話しに、すみれをただの他人とは思えない気持ちになっていた。話に聞き入ったばかりに一旦停止で切符を切られそうになった浩二を、機転を利かせて「重度の心臓障害を持つワタシを病院に送る途中の甥なの」と救うすみれ。予定よりも遅く葉山の<高齢者施設>に到着した浩二を名残惜しそうに別れるすみれを残して、へとへとに疲れた浩二は東京に戻るが・・・。
愛する娘の高い学費の捻出に悩む男と、最後の旅に出る老婆との友情を描くこの作品は、【寅さん】シリーズの洒脱な笑いを入れながら山田洋次監督が、苦しい生活を余儀なくされ、女性の権利など無い戦後の生活から、現代の世界有数の文明国までに発展していく日本を、賠償千恵子演じる老婆のすみれの回想を、タクシーの中で語らせながら描いていくのです。木村拓哉の素直な演技が、この作品に厚みを与えているのです。
ぼくのチケット代は、2300円出してもいい作品でした。
星印は、3ッ半さしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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