「ボストン・クローブ」紙の二人の記者の実録本『ブラック・スキャンダル』を元にしたこの作品は、表現できうるギリギリまでを追求した戦慄すべきリアルなギャング映画となっている。主人公のアイルランド系ギャング組織の首領ジェームス・バルジャーを演じたジョニー・デップの、その目を見るだけで瞬殺されそうな、ただならぬ怖さを感じる迫真の演技によって、より一層凄味を増した出来の作品となっている。
ボストンの南側の<サウシー>と呼ばれるアイルランド系移民が多く住む地域で、ギャング団組織を統括するバルジャーは、1975年、北ボストンのイタリア系マフィアとボストンでの利権を巡って抗争していた。そこにNYからボストンに転勤してきたFBI捜査官ジョン・コノリーは、マフィア浄化作戦で手柄をあげるため、絆の強い<サウシー>であり幼馴染みのバルジャーにFBIへの協力を持ち掛けた。しぶるバルジャーにコノリーは<サウシー>の仲間として説得する。実はバルジャーの弟ビリーは、州の上院議員としての高い地位にあったが、バルジャーはビリーを利用しようとはしていなかった。凶悪なギャングと上院議員という真逆の道を歩む兄弟だが、年老いた母を中心にして仲のいい生活をしていたのだ。
バルジャーがFBIのコノリーと協定を結び、マフィアの情報を漏らすようになってから、勢力が弱まるマフィアと反対にバルジャーの率いるギャング団がボストンで勢力を増してきた。
家族や地域の人々から親しまれていたバルジャーだが、溺愛する息子ダグラスの死亡や愛する母の死去から、バルジャーの狂気的残虐さに歯止めが掛からなくなる。
今やボストンの司法当局の捜査対象はバルジャーのギャング組織となり、<サウシー>の友誼に結ばれたコノリーも次第に追い詰められていき、それはビリーの身にも…。
トム・クーパー監督のリアリティあふれる鋭い感覚の演出は、戦慄すべき息詰まる内容としているが、テンポが早い分、相関関係が観客に掴みにくいところがあるので注意!
しかし、アメリカという移民国家の同郷の根の深い絆!善であれ悪であれ絶対に裏切らないという心意気の凄さと、同時に敵や裏切りに対しての凄まじいバイオレンス描写は見る人の肝を冷やすことにもなる作品である。
ぼくのチケット代は、2300円出してもいい作品でした。
星印は4つ差し上げます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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