豪快かつ生ぐさい男のドラマを描いてきた阪本順治が、藤山直美を映画の世界に引っ張り出して、初めて女性を主人公にして別府を舞台にした「顔」(1999)を撮り、各種映画祭の賞を総なめにしてから16年。ふたたび藤山直美と組んだこの作品は、大阪弁の庶民的しゃべくり会話を全編にわたって横溢させながら、本来の藤山直美の魅力をたっぷりと満喫させる奇想天外で愉快なコメディとなっている。
とある事情があって漢方薬局の店を閉めた山下清治は、妻のヒナ子と大阪近郊の団地に半年ほど前に引っ越してきた。
今は趣味みたいに近所の林で薬草を採取している清治は無職。家計を助けるためヒナ子は、スーパーのレジ係として働いている。そんなふたりを団地に尋ねてくるのは、奇妙な立ち居振る舞いをする真城という青年だけ。過去を語らず物静かな生活をしている清治とヒナ子を、暇を持て余す団地の奥さま方は興味津々で観察していた。
そんな中、団地の自治会長の行徳正三と妻の君子は何くれとなく清治とヒナ子に団地のしきたりなどを教えてくれる。そんな折、無職で物静かで教養のありそうな清治に行徳正三が、次期の自治会長選挙に自分の後釜として立候補を要請してきた。
ボランティアで自治会長をしているのに団地にうるさ方の文句に嫌気が差した、と言うのだ。新参者に資格がないと断った清治だが、要請につい色気が出て立候補してしまう。結果は、何と再び立候補してきた正三に負けてしまった。あれやこれやで頭にきた清治は、ヒナ子に「オレは死んだことにする」と告げて部屋の床下に隠れてしまう。林への散歩の姿が見えない清治に、かまびすしい団地の奥さま方が、ひょっとしたらヒナ子がケンカして清治を殺したかも?などと勝手に妄想を広げ、いつものように淡々とスーパーのパートに行くヒナ子を見ながら「怖い人や」など勝手に決め付ける。そうなると噂は団地中をひとり疾りしはじめるのは世間の常。他人の不祥事ほど茶飲み話で楽しいものはない!さあヒナ子はどうするどうする…!
大阪特有のオチをつけなきゃあ収まらない、という軽妙なしゃべくりの面白さが、ブラックな尾ヒレをもっていく過程の作劇の手腕は、さすが大阪人の阪本順治!水を得た魚のようにイキイキとした演出に酔うコメディであり、加えて奇想天外なオチの楽しさは見てビックリの作品となっている。藤山直美と岸部一徳の大阪漫才的掛合いの演技は絶品であり、これぞ大阪映画と言っていい内容となっている!
ぼくのチケット代は、2,200円出してもいい作品でした。
星印は、4つ差し上げます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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