9・11事件、リーマン・ショック事件とアメリカ国民に深い傷跡を残した、21世紀のアメリカ合衆国は、2009年の<ハドソン川の奇跡>によって心が癒された。
この奇跡を起こした通称<サリー>ことサレンバーガー機長の、ハドソン川へ故障した旅客機を乗員・乗客155名を全員無事に不時着水させた事件は、奇しくもオバマ大統領の就任とブッシュの退任と重なった日でもあったのだ!
この事件をC・イーストウッド監督は、その顛末を語る単なるパニック映画ではなく、サリー機長の事故後のフラッシュ・バック現象で起こる悪夢と、事故調査委員会のきつい諮問会を中心に描きながら、簡潔にかつ正確に事故に至る顛末を見せてくれるといういわば二重構造での劇を組み立ててきた。
はげしい悪夢でベッド上で目をさましたチェスリー・サレンバーガー機長。通称<サリー>は、事故調査委員会の諮問会への副機長のジェフ・スカイルズと出頭の身。
2009年1月15日。NYラガーデイァ空港を離陸したサリー機長の旅客機は上昇後すぐに大きなカナダガンの群れに突っ込まれ、両方のエンジンを損傷した。850mという低さで推力を失った旅客機に残された手段は緊急着陸しかない。サリーは巨大都市NYに墜落する可能性を回避する方法としてハドソン川へ不時着水を敢行する。熟練の腕でハドソン川へ着水した旅客機に気付いたフェリーが駆けつける。氷のように冷たいハドソン川でわずか20分で続々と駆けつけたフェリーによって乗客・乗員155名は全員救助された。ハドソン川の奇跡!である。全米が喝采したこの事件で、サリーは一躍ヒーローとなる。しかしサリーは、この絶体絶命の困難を乗り切った代償に心の傷を負う。さらに追い討ちをかけるように、最寄りの空港に着陸が可能であったかも知れないとシュミレートした事故調査委員会のきつい諮問にかけられる。サリーは心の傷を押し隠しながら、事故当時の状況を冷静に判断しながら事故調査委員会のコンピューターシュミレーションの欠陥をついていくのだが…。
無駄を一切省いた演出によって、事故の顛末からその後の事故調査委員会の諮問会を描写した腕の冴えに感服した。イーストウッド監督にとって年齢は関係ない!まるで裁判劇を見ているような委員会とのやり取り、そして事故の再現。クライマックスの人間のアナログ的直感(もちろん熟練した手腕)による判断と、デジタルによるシュミレーションの息詰まる攻防は、人間への尊厳を余す所なく描写した傑作となっているのだ!
ぼくのチケット代は、2,500円出してもいい作品でした。
星印は、5ツさしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
©2024 Oita Broadcasting System, Inc. All Rights Reserved.