将棋界のレジェンドとなった天才棋士・村山聖(1969~1998)。将棋愛好家から「東の羽生、西の村山」と謳われたが、<ネフローゼ症候群>という腎臓の難病のため29才という若さで短い生涯を終えた。この作品は、この村山聖の壮絶な生涯をドキュメント小説で描いた大崎善生の『聖の青春』から、聖の最後の4年間に焦点を置き宿敵・羽生善治との闘いを中心に、聖の将棋に懸けた生き様を描く内容となっている。
「西の怪童」と呼ばれる村山聖七段。幼少時に腎臓の難病に冒され無理の聞かない躰と闘いながら26才の現在、関西棋士界の期待の星として「名人」位のタイトルを目指していた。穏やかな性格の師匠・森信雄六段の元で暮らしていたが、同世代であらゆるタイトルを獲得した天才棋士・羽生との闘いに敗れ、羽生のいる東京でさらに腕を磨くことを決心し上京する。病気の影響で異様に太り、爪や髪は伸び放題、マンガ本を愛し、酔うと先輩連中でも食ってかかる聖に東京の棋士たちは呆れるが、その内に聖の純粋な性格と将棋に対する情熱の深さに魅了され応援しはじめる。聖と真逆の性格の羽生を常に意識し、同時に天才としての孤独を抱える深い精神の奥を同じ天才として理解する聖は、いつしか羽生に親しみを感じてくる。聖はさらに羽生と同じ高みに到達しようとして精進していき、羽生を射程内にとらえる位置まできた時、聖の躰に異変が起こった。病気が進行し膀胱に癌が発生したのだ。医師から「このまま将棋を指しつづけると命が持たない」と宣告される。もう少しで羽生の牙城に迫っていた聖は周囲の忠告を無視し将棋に懸ける決意を示す。聖は分かっていたのだ、もう刻一刻と病魔が自分の躰を冒しつづけ長くは持たないだろうことを、だがもう少し命を長らえて宿命のライバル羽生と勝負をしたい!聖は難しい決断に迫られた末、生き延びるためでなく、再び戦うため膀胱摘出の大手術を受ける決心をする。それは28才の時だった…。
村山聖を演じる松山ケンイチは、聖の体型に似せるため大幅な増量をして、この作品に挑んだ。その俳優魂には頭が下がる。
内容としては、聖の晩年の4年間の生き様に焦点を当てる演出なので、将棋ファンが期待したであろう、聖と羽生の戦いの棋譜などの詳細な描写はなく、あくまで孤高の天才ふたりの描写に重きを置いてきたので、少し失望感はあるかも知れない。
が松山ケンイチの聖に憑依したかのような熱演は圧巻の作品であった!
ぼくのチケット代は、2,000円出してもいい作品でした。
星印は、3ツ差し上げます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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