ハート・ウォーミングな内容の映画として、今年いちばんと言っていい作品だ!
今だにカーネギー・ホールのアーカイブ録音の人気ナンバー・ワンである、フローレンス・フォスター・ジェンキンス(1868~1944)をメリル・ストリープが、フローレンスに献身的に尽くす夫シンクレアにヒュー・グラントという豪華な俳優を配し、ヘレン・ミレンがオスカーを獲得した『クイーン』(06)のスティーヴン・フリアーズが監督するこの作品は、いかにもイギリス映画らしい洒落たセンスのユーモア感を漂わせる豊潤な、映画好きな大人のためのハート・ウォーミング作品となっているのだ。
1944年、大富豪家であり篤志家であるフローレンスは、音楽家の支援のため自分が創設したNYの<ヴェルディ・クラブ>で夫シンクレアの司会で、クラブ会員になってくれた仲間の前で寸劇を演じている。25年間連れ添っているシンクレアは、少女のように無垢なフローレンスの喜ぶ顔を見たいためバックから全力で彼女を支えていた。
そんなフローレンスがオペラを歌いたいと言い出す。シンクレアはすぐに著名な歌唱指導者を探し、ピアノ伴奏者のオーディションをしてコズメ・マクムーンという演奏も性格も穏やかな青年を採用する。そして練習初日、張り切ったコズメの目が点になってしまう。何とフローレンスは破壊的なオンチだったのだ!伴奏者を辞退しようとするコズメをシンクレアが説得し<ヴェルディ・クラブ>のコンサートは開催される。シンクレアは裏から手を回しコンサートは満員の盛況。実はフローレンスは、自分がオンチである事をまったく自覚してないのだ!笑いを押さえながら聞いてくれる大人としての対応の観客の中で、大声で笑う富豪の後妻アグネスをシンクレアが上手く会場から連れ出す。自信を持ったフローレンスが、兵隊たちを招待してカーネギー・ホールでコンサートをすると言い出す。天下のカーネギーで!コズメは自分のキャリアを傷つけると今度こそ辞退したいと言う。そんなコズメにシンクレアは、フローレンスの難病の事を言う。絶対長生きできないと宣告された病いを抱えながら50年苦しんだフローレンスの秘密の生活を!そして運命のカーネギーのコンサートの幕が開くが…。
オンチの歌唱を訓練したメリル・ストリープのすごい演技、ピアノを弾ける俳優として起用されたサイモン・ヘイバーグの演奏と演技、そしてバックから妻を支えるヒュー・グラントの引立て演技のアンサンブルが絶妙の心あたたまる超オススメの作品なのだ!
イギリス映画のドラマ作りの丁寧さと上手さを存分に味わえる作品でした。
ぼくのチケット代は、2,500円出してもいい作品でした。
星印は、5ツ差し上げます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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