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ミス・シェパードをお手本に

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   2017/01/17

衛藤賢史のシネマ教室

映画の冒頭に<ほとんど真実の物語>と字幕が出る。この物語は原作者であり劇作家として著名なアラン・ベネットが体験した事実であり、後にベネットが舞台劇として発表し好評を博したものを、監督・主演をそのままにして映画化したものなのだ。
1970~80年代のロンドン。文化人たちが多数暮らすカムデンに越してきたベネットは、黄色いバンの中で暮らす老婦人を見る。住人たちはこのミス・シェパードと呼ばれるホームレスの老婦人に寛容で何くれとなく世話を焼くが、お礼の一言を言うでもなくかえって悪態で応えるという偏屈な人だった。しかし、段々と路上駐車の規制がきびしくなりベネットはちょっとした親切心から自宅の駐車場を解放してあげたのが運の尽き。
それから15年、ミス・シェパードは延々と居つづけ、ベネットとの奇妙な共同生活がはじまった。自宅のトイレを時々貸す以外は何にも要求せずミス・シェパードは当然のように駐車場に置いたバンで暮らしている。この誰にも頼らずひとり毅然として暮らすミス・シェパードに対する、知的好奇心から観察する心と、内心は辟易とする世俗的心に分離するひとり二役のベネット。
同じ服装のままなので鼻をつまむような匂いをさせながら、なぜかしらフランス語が堪能で、異常に音楽を嫌い、人を寄せつけない態度を取りつづけるミス・シェパード。
ベネットの作家としての知的好奇心により、少しずつミス・シェパードの体験した過去が垣間見えてくるのだが…。
舞台でもミス・シェパードを演じたマギー・スミスの演技に酔う作品でもある。
ボロを纏い悪臭を悪態をふりまく厄介な老女として登場し、しだいにその哀切な過去が浮かび上がる後半の陰影のある表情の演技への見事な変化など能楽の<卒塔婆小町>を思わせる余韻を味わせてくれるのだ。
いかにもイギリスらしい突き放したようなユーモア感を漂わせながら、ひとりの人間の人生の深淵を描写したニコラス・ハイトナーのカラッとした演出も優れていた。
クラシック・ファンにとって、若き日のミス・シェパードに扮した若手ピアニスト、クレア・ハモンドが弾くショパンのピアノ協奏曲を楽しむ作品でもあるのだ。
ぼくのチケット代は、2,200円出してもいい作品でした。
星印は、4ツ差し上げます。

5点満点中4点 2200円

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