<司馬史観>と称される日本の歴史のある部分を切り取って俯瞰する大河小説作家の司馬遼太郎の大ファンである。『竜馬がゆく』『翔ぶが如く』『坂の上の雲』の近代を扱った3部作はTVドラマで視覚化されたが、まさか『関ヶ原』が映画化されると思わなかった。膨大な登場人物、東西併せて10万以上の武士・小者が激突する戦闘、しかもそれぞれの衣装・装束、さらに小説は文庫版で上・中・下の長い物語、どれを取っても映画化するには不利の条件が満載なので実現は不可能と考えていたから、まずは原田監督の大いなるチャレンジ精神に敬服したい!
原作のように敗者である石田三成(岡田准一)に焦点を当て、なぜ秀吉の幕僚である三成が挙兵したかを中心に描いている。その大義という純粋な思想による行動を描きながら、戦国期の武将の秀吉亡き後の虚々実々の駆け引きを家康(役所広司)という当時後継者ナンバー1である大武将の腹芸のしたたかさを見せる事によって、三成の純粋さを浮かび上がらせる演出である。
何しろ歴史上に名を残した膨大な数の武将・女性たちが登場人物なので、原田監督は三成の心根に惚れた島左近(平岳大)と、難病に犯された知将・大谷刑部(大場泰正)を三成方の重要な脇役として登場させ、さらに女性の忍びの者・初芽(有村架純)を三成とのプラトニックな愛を交わす登場人物に置き、命懸けで三成に尽くす女性として描写していく。関ヶ原の合戦でキーマンとなった小早川秀秋(東出昌大)は司馬小説と違う原田監督の視点での御家の存続と個人の気持ちの葛藤に悩む19才の武将の苦悩とする事で、この関ヶ原の合戦のかなりの数の登場人物の気持ちを代弁する役柄としている。
この大河小説の映画化は正直に言えば成功とはいえないかもしれないが僕は支持する。149分の映画としては長尺ではあるが、時間制限の映画としてはTVと違い、どうしても挿話や人物を切り取る大胆な伐採手腕が監督の腕の見せ所となるのだ。原田監督はよくやったと思う。また映画人の誇りをかけて、大道具・小道具など様々なジャンルを受け持つスタッフのいい映画を作るぞ!という意気込みがスクリーンの端々までヒシヒシと伝わる大作の風格を残し、同時に司馬小説『関ヶ原』への敬意を十分に込めた映画「関ヶ原」となっていたのだ!スケールの大きな時代劇を撮るのが色々な諸事情で困難な今の日本映画界に、敢然と挑戦した原田監督の意欲に敬服する作品であった。
ぼくのチケット代は、2300円出してもいい作品でした。
星印は、4ッさしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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