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衛藤賢史のシネマ教室

エルネスト

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   2017/10/10

阪本順治監督は、この作品においてケレン味を一切排除して、いわばクセ球なしの直球一本で押してくる内容に終始してきた!そのため、見る側にとって一本調子の内容として不満を持つ方がいると思うが、それを覚悟の上で主人公の日系二世ボリビア人であるフレディ前村の、鮮烈な短い生涯を追う演出方法を採用したと考える。
 
鹿児島出身の父とボリビア人の母を両親として1941年に生まれたフレディ前村(オダギリ・ジョー)は、国家事情(左翼主義者排除)により母国の大学進学を捨て、当時南米で唯一の社会主義国家キューバのヒロン浜勝利医学校に1952年入学する。入学して5日目、ソ連がキューバに核兵器を貸与するとしたアメリカの反発で起こったいわゆる[キューバ危機]に直面し、志しを同じくするボリビア人の留学生と共に民兵として参加するが、キューバの意向を無視した突然の〈米・ソ合意〉という大国同士のエゴに振り回される小国の悲哀さにやり切れぬ想いを胸にフレディ前村は、ふたたび大学にもどり医学の道に専念する。翌年、フレディの憧れの人!医師であり革命家のチェ・ゲバラ(ホワン・ミゲル・バレロ・アコスタ)が大学を訪問してきた。フレディはゲバラに質問し「怒りと憎しみは違う、憎しみからはじまる戦いは勝てない」という言葉に感銘する。そんなフレディは同じボリビアからの留学生ルイサ(ジゼル・ロミンチャル)に思いを寄せていたが、彼女は恋人から捨てられ娘を出産していた。それでも思いは変わらないフレディは愛情を持って支えつづけた。そんな矢先、ボリビアでは軍事クーデターが起こり、より強烈な独裁権力を行使しはじめた、という情報が入る。フレディは悩むが親友とゲバラが指揮する〈革命支援隊〉に入隊する決心をし、「エルネスト」というゲバラの名前をもらいボリビアに向かう・・・。
 
1959年、チェ・ゲバラがキューバの代表として原爆の被災地・広島を訪問するシーンからはじまるこの作品は、アメリカ資本の介入により腐敗政権が誕生し、その両方から搾取されつづける庶民の惨状をベースにして、それを憂う若者たちの気持ちを、日系二世のボリビア人フレディ前村をその象徴として描いたものとなっている。オダギリ・ジョーが全編スペイン語の台詞でフレディを熱演しており、永山絢斗が広島の新聞記者で出演するシーン以外はキューバで撮影されている。チェ・ゲバラの言う、独裁国家への〈怒り〉が重要なテーマとなっているのだ!
ぼくのチケット代は、2000円出してもいい作品でした。
星印は3ッさしあげます。

5点満点中3点 2000円

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