まず、驚いたのは、こんな方法でもアニュメーションが撮れるのだ!という事だった。ゴッホが描いた肖像画の人々が、125人の画家によって約6万以上の油絵で描かれ、ゴッホの絵画にそっくり似た特別セットで、俳優たちが演技する様をCGアニメーションで、その油絵と合成させゴッホ絵画の背景の中で肖像画が動きはじめる(一秒間に12枚の油絵を使って撮影)という気の遠くなるような手法で完成させたのだ。しかも、きちんとしたドラマ仕立てであり、謎に満ちたゴッホの自殺の原因に迫るミステリーとなっているではないか!ゴッホの自殺に関しては、今でも諸説があり<発作的であっても自分で自分の腹を撃ち苦しみながら宿屋にもどり2日後に亡くなるなど有り得ない>ことから殺人説まであるのだ。この作品はそこに焦点を当て、自殺か他殺かを推理していくことになる。
ドラマの狂言回し、つまり主人公はゴッホを理解していたアルルの郵便局長ジョゼフ・ルーランが、ゴッホが弟のテオ宛てに書いた最後の手紙を息子のアルマンに託した事からはじまる。父の頼みにイヤイヤながらアルマンは、テオの行方を探すも、画商のタンギー爺さんからテオはゴッホの死後の半年後に衰弱して亡くなったと聞かされる。アルマンはゴッホの死の本当の原因は何だったかについて調べはじめる。あの有名なゴーギャンとのいさかいから発作的に自分の耳を切り取り、サン・レミの療養所に入院した後、移り住んだオーヴェル村を訪ねる。そして泊まっていた宿屋の娘マルグリットから、この村でのゴッホの人間関係を聞く。ゴッホの最後を看取った医師ガシェー、その娘アドリーヌ、ゴッホにいたずらをするルネ、貸しボート屋の男などに聞き取りをしていく内に、だんだんとゴッホと村人との人間関係が明らかになっていく(これらの人々はすべてゴッホの肖像画に描かれている)につれて、アルマンは鍵を握る人物として医師ガシェーに注目するのだが・・・。
ゴッホが描いた肖像画の人々が、6万点以上の油絵によってスクリーン上に生き返り、ゴッホ・タッチの背景の中を生き生きと動く様は唖然とするしかない!ラストのスタッフロールに絵画の人物像の肖像画が紹介されるので、この映画を見た後、ゴッホに興味のある方は画集をもう一度見直したくなること確実であると思う。でも、こんな作品を撮ろうなんて、よく思ったもんだね!
ぼくのチケット代は、2300円出してもいい作品でした。
星印は、4ッさしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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