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15時17分、パリ行き

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   2018/03/06

衛藤賢史のシネマ教室

2015年8月21日、オランダのアムステルダムからパリに向かう高速列車タリス号で発生した無差別テロ事件を、未然に防いだ3人の若者と協力した人々を、俳優でなく本人に演じさせる、という究極のリアリティを求めたC・イーストウッド監督の<事実の再構成>を謳う作品である。
 
ドラマの構成は、まず重そうなキャリーバックを引きずり、ブリュッセル南駅から乗り込む下半身だけの男の描写からはじまる。何かしら不穏な気配が漂う巻頭・シーン!次の瞬間05年カリフォルニア州サクラメントで、ふたりのシングルマザーの母親が学校に呼び出され、活発だが落ち着きのない息子の事で注意されるシーンへと画面が移りスペンサー、アレク、アンソニーの少年期に培われた堅い友情の絆のエピソードから、成人してそれぞれ別々の道を歩みはじめた過程がスペンサーを通して描写される。
スペンサー・ストーンはアルバイトを経てEMT(救急救命士)として空軍へ、アレク・スカラトスはカレッジを経て州兵へ、アンソニー・サドラーはカリフォルニア大学サクラメント校へと進学していた。空軍としてポルトガルに赴任中スペンサーは、アフガニスタン赴任中のアレク、大学生であるアンソニーにヨーロッパ旅行を提案し、イタリア・ドイツ・オランダを経由して青春を謳歌しながらパリに行くため、運命の列車タリス号にアムステルダムから乗り込んだ。まさかテロに遭遇するとは夢にも思わずに・・・。
そこから巻頭シーンへふたたび戻り、緊迫した状況へとドラマは急転するのだ。
 
C・イーストウッド監督は、94分という上映時間の大半を、三人の若者の成長過程と青春の謳歌の描写に時間を割き、もしも躊躇したり怯えたら大惨事になる可能性もあったテロを咄嗟の判断で短時間で制圧した三人の若者と乗客の行動を<事実の再構成>としてドラマティックに描かない。そこには日常のごく平穏な生活を当然とする社会に、様々な社会的原因はあるものの荒々しい非日常の暴力世界が割り込もうとする、現代社会における曖昧な境目の危惧を描こうとしたのかもしれない。
三人が本人だとしらなければ、イキのいい若手俳優が出てきたと思うほどナチュラルな演技に感心させられたと同時に、三人のきれいな目つきに清々しい印象が残った。
ぼくのチケット代は、2200円出してもいい作品でした。
星印は、4ッさしあげます。

5点満点中4点 2200円

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