日本演劇界のエースであり、映画脚本でも数々の受賞作を持つ鄭義信が、自身の演劇作品を持って映画監督として初演出した作品だ。この映画と同名の演劇は2008年の日本演劇界の賞を総ナメにした作品で、韓国など外国でも上演され好評を博したものである。
この物語の舞台は1969年(昭44)。関西の伊丹空港の側にある貧しい集落。ハングルと関西弁が飛び交う在日の人々が暮らしていた。そこの一角にある焼肉店「ドラゴン」を経営している龍吉(キム・サンホ)は、妻・英順(イ・ジョンウン)、長女・静花(真木よう子)、次女・梨花(井上真央)、三女・美花(桜庭ななみ)、末っ子・時生(大江晋平)と共に暮らしている。龍吉は日本兵として戦争にいき負傷し片腕がない身で、懸命に働いている。妻・英順は先妻の子である静花・梨花も深く愛し子供たちに分けへだてなく接する肝っ玉カアさん。毎日常連客がおとずれ溜まり場となっている。そんなひとりが哲男(大泉洋)、静花の幼馴染みで梨花と結婚しようとしていた。美花には長谷川(大谷亮平)という恋人がいるが離婚訴訟がうまくいかず、英順はむかっ腹を立ててふたりの結婚に反対している。そして時生は学校でイジメにあい登校拒否状態。そんなかまびすしい家族をまとめる役が静花なのだ。龍吉は、いつも冷静でおだやかに静花がまとめ役の家族を働く後ろ姿で統率していた。そんな静花に韓国からやってきた尹(ハン・ドンギュ)が一目惚れし、猛烈にアタックしてきた。梨花と結婚しながら、幼馴染みの静花を心の底で深く愛していた哲男は、それが気に食わず尹と会えばいつも大ゲンカの毎日。そんなテンヤワンヤの生活の中、急速に高度経済成長の波が日本中に大きなうねりを伴って襲ってきた。そしてこの肩寄せ合って生きてきたこの集落にも容赦なく時代の波が押し寄せてきたのだ。龍吉はつぶやく「たとえ昨日がどんなでも、明日はきっとえぇ日になる」・・・。
どんな境遇でも、どんな暮らしでも人間として毎日を誠実に生きていく!という片隅からの一灯をテーマにし、人間の明日を信じる気持ちを「焼肉ドラゴン」の一家に集約して描写しようとする鄭監督の人間讃歌への思いの強い作品となっているのだ。韓国映画界から参加した、キム・サンホ、イ・ジョンウン、ハン・ドンギュなどの達者な演技にも注目の作品である!
ぼくのチケット代は、2100円出してもいい作品でした。
星印は、3ッさしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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