1980年。前年の朴正煕大統領暗殺事件後、戒厳令を占いた韓国は、金大中などの政治家、学生運動指導者、労組幹部などを逮捕した。金大中の出身地の全羅南道・光州で彼の即時釈放を求める市民たちが蜂起する。この大規模な市民たちのデモに対して、軍隊や警察を動員した徹底的な鎮圧により多数の市民に死者が出る凄惨な事件が起こりました。これが後に[光州事件]と呼ばれる事件の概要です!
この作品は、この出来事を世界に発信するための戒厳令下の光州に入ったドイツ人ジャーナリストと、彼をソウルから乗せて行った無名のタクシー運転手との、実在の人物をモチーフにして作られた、ふたりの交情とこの韓国現代史をミックスさせながら展開するスリリングな内容をユーモアというオブラートで包んだポリティカルな作品なのです!
ソウルのタクシー運転手マンソプ(ソン・ガンホ)は、政治に無関心な平凡な市民。そんなマンソプにドイツ人のジャーナリスト・ピーター(トーマス・クレッチマン)が光州までの長距離乗車を依頼してきた、戒厳令下の韓国では通行時間制限がありソウルから光州まで行くのに躊躇するが、大金を払うという誘惑に負けたマンソプは承知してしまう。タクシー運転手ならではの裏道を知っていたマンソプは、制限時間内に光州に着くと甘く考えていたが、光州へ行く道路のあらゆる小さな道も監視されており、あっちへこっちへとタクシー仲間に無線で教えてもらい、やっとの思いで光州に到達する。その苦労した行程でふたりはしだいに仲良くなっていきます。その光州はソウルとは同じ国とは思えないほど厳しい監視網にびっくりするマンソプ。だがマンソプは光州のタクシー運転手や、少し頼りないが機転の利く大学生たちと話しが合い、ピーターを連れて取材していくことになる。同国人とは考えられない軍部・警察と光州の庶民との争いに巻き込まれながらマンソプとピーターは光州内を走り回るのだが・・・。
熱い庶民魂をもつマンソプが、光州の仲間たちと緊密な連絡を取りながら[光州事件]の真っただ中でピーターの取材に協力する姿をスリリングに描きながら、その庶民視点での何が何やら分からん状態を、思わずプッと吹き出すユーモア感覚満載のチャン・フン監督の計算された冴えた描写によって、政治と一般庶民の気持ちの乖離感をくっきりと浮かびあがらせてくれる秀逸な作品となっていたのです!
ぼくの星印は、4ッ半さしあげたい作品でした。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
©2024 Oita Broadcasting System, Inc. All Rights Reserved.