あいさつ・連絡・他者への愛etc、スマホで遠く近く関係なくさらっと瞬時に届く手軽で便利(味気無い)な時代に、岩井俊二監督がそんな世界に背を向けるような自筆での文通という、つつましい香りのするラブストーリーを、故郷の宮城県を舞台にして発表した作品だ。
裕里(松たか子)の姉・未咲は、高校時代成績優秀で生徒会長を務め卒業生総代にもなった美少女だった。そんな未咲が40代の若さで亡くなった。その葬儀で裕里は未咲の娘・鮎美(広瀬すず)から姉の同窓会の案内を渡される。裕里は姉の死を報告するため同窓会に行くが未咲と間違えられ成り行きで姉に成りすます羽目になる。その場で裕里は初恋の相手の鏡史郎(福山雅治)と25年ぶりに再会する。鏡史郎は未咲に初恋し、裕里は鏡史郎に初恋し、姉に劣等感を持つ裕里は不本意ながら鏡史郎の姉への恋を応援するというややこしい関係の高校時代だったのだ。未咲に成りすましメールの交換をした<実は鏡史郎は裕里と気づいていた>裕里だったが漫画家の夫(庵野秀明)にメールを見られ、ある場所の住所を借りて文通に切り替え未咲のふりをして手紙の交換を重ねる。が、その内の一通が実家に届き、それを読んだ鮎美<母の残していた手紙で鏡史郎のことを知っていたのだ>は、高校時代の鏡史郎(神木隆之介)と未咲(広瀬すず)そして裕里(森七菜)の淡く清い初恋に思いをたどるのだった。一方、鏡史郎は東京で小説を書いていた。未咲への想いの深さから独身を通し処女作で「未咲」というタイトルで、ある文学賞を受賞したのだが、なかなか次のステップが踏めず悩んでいたのだ。裕里と会い未咲が自死したことを知り、その原因を調査しはじめる。だがそれはかえって鏡史郎の心を苦しめる。そして廃屋となった高校をたずね、けぶるような雨の中に傘をさしたふたりの少女に出会う鏡史郎・・・。
25年の過去と現在。それぞれ微妙に違いがあるちぐはぐな手紙のやり取り、その根底にある清らかな心の繋がりと思いやりを描くこの作品は、時を超えてふたつの世代の心を手紙が結び癒していく様を情感ある描写で紡いでいく佳作となっていたのだ。
ぼくのチケット代は、2200円出してもいい作品でした。
星印は、3ッ半さしあげます。
“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。
星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)
【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動
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